書評

『きまぐれロボット』(KADOKAWA)

  • 2021/09/06
きまぐれロボット / 星 新一
きまぐれロボット
  • 著者:星 新一
  • 出版社:KADOKAWA
  • 装丁:新書(168ページ)
  • 発売日:2014-03-15
  • ISBN-10:404631382X
  • ISBN-13:978-4046313829
内容紹介:
時をこえて読みつがれる、星新一ショートショート決定版

お休み前のショートショート

「ねえねえ、おかあさん、いんりょくって、なに?」「グルメって、なに?」「スリルって?」「ぎっくりごしって?」

このごろ、息子の質問攻勢が止まらない。引力からぎっくり腰まで、言葉の採集場所はわかっている。『ドラえもん』だ。とにかくドラえもん熱が半端ではなくなってきて、朝起きてドラえもん、おやつの前にドラえもん、夕飯前のドラえもん、風呂あがりのドラえもん、お休み前にもドラえもん……といった感じ。

おかげで、自力で読む力は飛躍的についた。語彙(ごい)も増え、日常的につかう言い回しなども確実に豊かになった。

ただ、あまりにもドラえもん一辺倒ではどうかなという気もする。マンガに偏見(へんけん)はないけれど、おもしろくて読みやすいものばかりでは、なんというか言葉を嚙むあごの力がつかないのでは、と心配になる。

そこで、少し歯ごたえのあるものを用意してみようと思いたち、何冊かを購入。その中から息子が「これがいい!」と迷わず選んだのが、子ども向け仕様の『きまぐれロボット』だった。

私が星新一のショートショートにハマっていたのは中学生のころ。ちょっと難しいかなとも思ったが、案外楽しそうに聴き入っている。やっぱり、おかあさんに読んでもらうのはラクだなあというような顔をして。オチのところでは、ぽかんとしていることもあれば、にやりと笑うこともある。

一番笑ったのは「夜の事件」という作品。冒頭の「そのロボットは、よくできていた。」という一文には、面食らって「え?なに、そのロボットって……」と、訝(いぶか)しそうにしていた。思えばこれは、かなり大人の文体だ。

遊園地の門に立っているロボットは、挨拶(あいさつ)やお愛想を言う仕事をしている。ある晩、地球の占領をたくらむキル星人がやってきて、このロボットに話しかける。だが、いくらすごんでみせても、ロボットはニコニコして「遠いところから、ようこそ」とか「心から歓迎いたしますわ」などとしか言わない。キル星人は不気味がり、地球人の平和的な態度に感心もし、自らを恥じて立ち去る。見送るロボットの一言は「もうお帰りになるの。また、いらっしゃってね」である。

ロボットのセリフを読むたびに、息子はぐふぐふ笑っていた。「もし本当にキル星人が来たら、こうすればいいんだね!」という言葉を聞いたときには、星さんの深いメッセージが、時を経てこの枕元に届いたように感じた。

その後も「ねえ、キル星人って、刀で切るからキル星人なのかなあ」と、気になっている様子。

「そうかもしれないね。英語のキルには、殺すっていう意味もあるよ」

「げ~」

お休み前のショートショート、しばらく続けてみようと思っている。

【この書評が収録されている書籍】
かーかん、はあい 子どもと本と私 / 俵万智
かーかん、はあい 子どもと本と私
  • 著者:俵万智
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:文庫(224ページ)
  • 発売日:2012-05-08
  • ISBN-10:4022646667
  • ISBN-13:978-4022646668
内容紹介:
6歳になった今も、息子は絵本を持って母のもとへやってくる――。子育てをする歌人が、子どものために選び、自身も心を揺り動かされた絵本48冊を紹介したエッセイ。母親世代にも懐かしい不朽の名… もっと読む
6歳になった今も、息子は絵本を持って母のもとへやってくる――。子育てをする歌人が、子どものために選び、自身も心を揺り動かされた絵本48冊を紹介したエッセイ。母親世代にも懐かしい不朽の名作から、図鑑、ことば遊び、シュールなものまで、幅広く選んでいる。成長に応じた絵本探しの参考として、また母と子のあたたかな交流を描いた本として楽しい一冊。単行本全2巻を1冊にまとめて文庫化。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

きまぐれロボット / 星 新一
きまぐれロボット
  • 著者:星 新一
  • 出版社:KADOKAWA
  • 装丁:新書(168ページ)
  • 発売日:2014-03-15
  • ISBN-10:404631382X
  • ISBN-13:978-4046313829
内容紹介:
時をこえて読みつがれる、星新一ショートショート決定版

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ

初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2008年10月22日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

関連記事
俵 万智の書評/解説/選評
ページトップへ