書評
『きまぐれロボット』(KADOKAWA)
お休み前のショートショート
「ねえねえ、おかあさん、いんりょくって、なに?」「グルメって、なに?」「スリルって?」「ぎっくりごしって?」このごろ、息子の質問攻勢が止まらない。引力からぎっくり腰まで、言葉の採集場所はわかっている。『ドラえもん』だ。とにかくドラえもん熱が半端ではなくなってきて、朝起きてドラえもん、おやつの前にドラえもん、夕飯前のドラえもん、風呂あがりのドラえもん、お休み前にもドラえもん……といった感じ。
おかげで、自力で読む力は飛躍的についた。語彙(ごい)も増え、日常的につかう言い回しなども確実に豊かになった。
ただ、あまりにもドラえもん一辺倒ではどうかなという気もする。マンガに偏見(へんけん)はないけれど、おもしろくて読みやすいものばかりでは、なんというか言葉を嚙むあごの力がつかないのでは、と心配になる。
そこで、少し歯ごたえのあるものを用意してみようと思いたち、何冊かを購入。その中から息子が「これがいい!」と迷わず選んだのが、子ども向け仕様の『きまぐれロボット』だった。
私が星新一のショートショートにハマっていたのは中学生のころ。ちょっと難しいかなとも思ったが、案外楽しそうに聴き入っている。やっぱり、おかあさんに読んでもらうのはラクだなあというような顔をして。オチのところでは、ぽかんとしていることもあれば、にやりと笑うこともある。
一番笑ったのは「夜の事件」という作品。冒頭の「そのロボットは、よくできていた。」という一文には、面食らって「え?なに、そのロボットって……」と、訝(いぶか)しそうにしていた。思えばこれは、かなり大人の文体だ。
遊園地の門に立っているロボットは、挨拶(あいさつ)やお愛想を言う仕事をしている。ある晩、地球の占領をたくらむキル星人がやってきて、このロボットに話しかける。だが、いくらすごんでみせても、ロボットはニコニコして「遠いところから、ようこそ」とか「心から歓迎いたしますわ」などとしか言わない。キル星人は不気味がり、地球人の平和的な態度に感心もし、自らを恥じて立ち去る。見送るロボットの一言は「もうお帰りになるの。また、いらっしゃってね」である。
ロボットのセリフを読むたびに、息子はぐふぐふ笑っていた。「もし本当にキル星人が来たら、こうすればいいんだね!」という言葉を聞いたときには、星さんの深いメッセージが、時を経てこの枕元に届いたように感じた。
その後も「ねえ、キル星人って、刀で切るからキル星人なのかなあ」と、気になっている様子。
「そうかもしれないね。英語のキルには、殺すっていう意味もあるよ」
「げ~」
お休み前のショートショート、しばらく続けてみようと思っている。
【この書評が収録されている書籍】
朝日新聞 2008年10月22日
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