書評

『すべての、白いものたちの』(河出書房新社)

  • 2019/11/01
すべての、白いものたちの / ハン・ガン
すべての、白いものたちの
  • 著者:ハン・ガン
  • 翻訳:斎藤 真理子
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(192ページ)
  • 発売日:2018-12-26
  • ISBN-10:430920760X
  • ISBN-13:978-4309207605
内容紹介:
砕かれた残骸が白く輝く。現代韓国最大の女性作家による最高傑作が遂に邦訳。崩壊の世紀を進む私たちの、残酷で偉大ないのちの物語。
新聞、雑誌をはじめ各種メディアでも取り上げられ、今では20万部を売り上げる作品も登場するなど話題沸騰中の韓国の本。
書評アーカイブWEBサイトALL REVIEWSでは、第11回 (2019年) K-文学 (韓国文学)」)レビューコンクールにて最優秀賞を受賞された、高野 真理さんの『すべての、白いものたちの』(ハン・ガン著 斎藤 真理子訳 河出書房新社)評を特別に公開致します。

記憶に灯をともす――高野 真理

白いものたちの記憶。家族が語った、そして住んだ街、滞在した街、出かけた場所で見た白いものたちの。

作者の綴る平易で正確な言葉は、自然に集中力を喚起し、読む者は書かれた言葉の光景を見ると同時に自分の記憶の深いところへと降りていく。

ここで語られる白いものたちは、死、破壊、喪失の悲しみをまといながら忘却の流れに押されそっと消えようとするものたちだ。しかし作者であるハン・ガンによってすくいとられ、そのたぐいまれな力量により繊細な細部を壊されることなく、言葉として他者へ見えるものとされ、記録され記憶される。忘れられぬものとなる。そして読む者自身の忘れてしまった記憶もゆさぶり起こされる。

冒頭に作者があげる白いもののリスト。それが「おくるみ」「うぶぎ」「ゆき」「つき」というようにひらがなで表記されていることによって、言葉を読んだときにやわらかな白いイメージが広がるすばらしい翻訳だと思った。本書の原題は『흰』。韓国語には白を表す言葉には真っ白を表す「하얀」と様々なニュアンスの白を表す「흰」があるそうで、この本に登場した白はそれぞれ違う色の「白いものたち」なのだ。月も白い。霜も壊れた街も、笑いも、そしてタルトックのように白かった赤ん坊。本も五種類の異なる「白い」色の紙で綴じられている。ジャケットと本文中に使われているDouglas Seok氏のモノクロームの写真はこの作品のために撮られたものなのだろうか。黒いワンピースの女性の膝の上に広げられた小さな小さなやわらかそうな白いワンピースの写真。翻訳や装丁が一体となって作品の世界を日本の読者に届けてくれている。

ハン・ガンの文章は静謐で美しい。その背後にある頑強な決意に胸を打たれる。おそらく多くの痛みは死ぬまで消えることはない。それでも、生きていけるように、ハン・ガンが言葉で記憶に灯をともすように、自らの記憶に灯をともして、忘れてしまわぬように。生きていくことそのものが祈りであるから。


[書き手]高野 真理(たかの まり)
東京都在住。パク・チャヌク、ポン・ジュノ、イ・チャンドンなどの韓国映画に魅了され韓国カルチャーを探り始め、『こびとが打ち上げた小さなボール』に打ちのめされて韓国文学にも魅了される。本と本屋の空間が好き。教保文庫光化門店は至福の空間。日韓の良い本を同時に楽しめる空間を作りたい。現在韓国語勉強中。

[『すべての、白いものたちの』著者]ハン・ガン(漢江)
一九七〇年、光州生まれ。延世大学国文学科卒。
一九九三年に季刊『文学と社会』に詩を発表、翌年のソウル新聞新春文芸に短編小説「赤い碇」が当選して文壇デビュー。二〇〇五年に『菜食主義者』で韓国で最も権威ある文学賞とされる李箱文学賞、二〇一六年にイギリスのマン・ブッカー賞国際賞を受賞。邦訳に『菜食主義者』(きむ ふな訳)、『少年が来る』(井手俊作訳)、『そっと 静かに』(古川綾子訳)(以上、クオン)、『ギリシャ語の時間』(斎藤真理子訳 晶文社)、『すべての、白いものたちの』(斎藤真理子訳 河出書房新社)、『回復する人間』(斎藤真理子訳 白水社)などがある。

※第11回K-文学レビューコンクール(主催:K-BOOK振興会、後援:韓国文学翻訳院、協力:影書房、河出書房新社、クオン、晶文社、書肆侃侃房、筑摩書房)ではここに掲載した最優秀賞作のほか、優秀賞二作品と版元賞六作品が選ばれました。受賞作はK-BOOK振興会のウェブサイト(http://www.k-bungaku.com)でお読みいただけます。
すべての、白いものたちの / ハン・ガン
すべての、白いものたちの
  • 著者:ハン・ガン
  • 翻訳:斎藤 真理子
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(192ページ)
  • 発売日:2018-12-26
  • ISBN-10:430920760X
  • ISBN-13:978-4309207605
内容紹介:
砕かれた残骸が白く輝く。現代韓国最大の女性作家による最高傑作が遂に邦訳。崩壊の世紀を進む私たちの、残酷で偉大ないのちの物語。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
AR事務局の書評/解説/選評
ページトップへ