書評

『八本目の槍』(新潮社)

  • 2019/11/04
八本目の槍 / 今村 翔吾
八本目の槍
  • 著者:今村 翔吾
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(394ページ)
  • 発売日:2019-07-18
  • ISBN:4103527110
内容紹介:
知れば知るほど、胸が躍る。賤ケ岳の七本槍、そして石田三成の波乱の人生と哀しき秘密。歴史小説最注目作家、期待の上をいく飛翔作。

異なる道を選びながらも主君に尽くす若者の気概

賤ケ岳(しずがたけ)の七本槍(しちほんやり)。羽柴秀吉が柴田勝家を破った賤ケ岳の戦いの時に、秀吉の小姓たちが槍働きで殊勲を挙げた。子飼いの家臣を持たなかった秀吉は彼らに3000石を与え、七本槍として称揚した。加藤清正、福島正則、加藤嘉明、脇坂安治、片桐且元(かつもと)、糟屋(かすや)武則、平野長泰がその顔ぶれだが、大大名になった者、手堅く昇進した者、まるで出世できなかった者と、彼らのその後の人生は明暗を分けた。

本書はこの七本槍の人生を描く。七という数字はちょうど良い。それぞれに女性・友人・親族・家臣などを配して波乱に富んだ一生を語り、オムニバス形式で一冊の本にまとめたのかな、と思って読み始めた。

とんでもない。そんな安直な本では、まったくなかった。すべての人生と事件が有機的に絡み合い、関ケ原から豊臣家の滅亡にかけて、壮大な物語を紡いでいく。彼らはどんなに離れて暮らしても、立場が変わっても、長浜城の小姓部屋を共通の「家」として懐かしく思い出す仲間であった。そしてそこには、七本槍になり損ねたもう一人の槍、石田佐吉の姿があった。

彼らの思いは一つ。太閤(たいこう)殿下・秀吉のご恩に報いること。ではなぜ彼らは異なる道を選択したのか。特に佐吉こと石田三成は、なぜ皆の協力を得ぬままに、強大な家康に挑んで敗れたのか。自分を語らぬ優しい男、三成が隠していた真意を、関ケ原の戦いの後に七本槍は噛(か)みしめていく。そこには金と米、つまり経済の要諦と、兵力と武器、つまり軍事の真理があった……。

このコラムは、あまり押しつけがましいことは書かぬように心がけている。でも、禁を破る。この本は是非にも読んでいただきたい。よくできている。本当に面白い。ぼくが思い描く歴史小説の傑作とは、これである。
八本目の槍 / 今村 翔吾
八本目の槍
  • 著者:今村 翔吾
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(394ページ)
  • 発売日:2019-07-18
  • ISBN:4103527110
内容紹介:
知れば知るほど、胸が躍る。賤ケ岳の七本槍、そして石田三成の波乱の人生と哀しき秘密。歴史小説最注目作家、期待の上をいく飛翔作。

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初出メディア

サンデー毎日

サンデー毎日 サンデー毎日 2019年10月20日号

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