書評
『ラスト・チャイルド』(早川書房)
双子の妹を少年が執念の捜索
著者のジョン・ハートは、デビュー作『キングの死』で米国探偵作家クラブ賞最優秀新人賞の候補に残り、次作の『川は静かに流れ』で最優秀長編賞を受賞した。3作目の本書も、英国推理作家協会最優秀スリラー賞を受賞したそうだから、久びさの大型新人作家といってよい(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2010年)。ハートは、家族の軋轢(あつれき)や崩壊を、好んで取り上げる作家らしく、本書もそれを主要なテーマにしている。タイプは違うが、後期のロス・マクドナルドを彷彿(ほうふつ)させる、重厚な小説である。悪くいえば、妙にブンガク的な作風なのだが、ミステリーとしての骨格もしっかりしており、最後まであきさせない。
主人公ジョニーは13歳の少年で、行方不明になった双子の妹アリッサを、友だちのジャックの手を借りつつ、執拗(しつよう)に捜し続ける。父も、妹がいなくなったあと忽然(こつぜん)と姿を消し、残されたのは母キャサリンと、ジョニーの2人だけ。キャサリンは、土地の有力者ホロウェイの愛人になり、薬づけの毎日を送るという、かなり気の重い設定になっている。
しかし、そこへキャサリンに好意を抱き、ジョニーを気遣う刑事のハントが現れて、ほっとさせられる。この、一見ハードボイルド風のハントの存在が、なかなかいい。また、自堕落な母キャサリンにも、どこか毅然(きぜん)としたところが残って、憎めない魅力がある。この2人の造形が、本書の大きな収穫だろう。
事件は子供の失踪(しっそう)が相次ぎ、さらに複数の遺体が発見されるにいたって、異常犯罪者の犯行と分かる。ジョニーは、アリッサもその犠牲になったのでは、と必死に捜索を続ける。その執念が、物語をぐいぐいと引っ張る、大きな力として働く。
かならずしも、ハッピーエンドには終わらないが、崩壊した家族が別のかたちで再生しそうな予感を抱かせる締めは、この重い小説の救いになった。キャサリンにとって、残されたジョニーが〈ラスト・チャイルド〉なのだが、そのジョニーが一度は決裂したジャックと、仲直りするラストはすがすがしく、読後感を爽快(そうかい)なものにした。
朝日新聞 2010年5月30日
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