書評

『ラスト・チャイルド』(早川書房)

  • 2017/07/24
ラスト・チャイルド 上 / ジョン・ハート
ラスト・チャイルド 上
  • 著者:ジョン・ハート
  • 翻訳:東野 さやか
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(367ページ)
  • 発売日:2010-04-30
  • ISBN-10:4151767037
  • ISBN-13:978-4151767036
内容紹介:
少年ジョニーの人生はある事件を境に一変した。優しい両親と瓜二つのふたごの妹アリッサと平穏に暮らす幸福の日々が、妹の誘拐によって突如失われたのだ。事件後まもなく父が謎の失踪を遂げ、… もっと読む
少年ジョニーの人生はある事件を境に一変した。優しい両親と瓜二つのふたごの妹アリッサと平穏に暮らす幸福の日々が、妹の誘拐によって突如失われたのだ。事件後まもなく父が謎の失踪を遂げ、母は薬物に溺れるように…。少年の家族は完全に崩壊した。だが彼はくじけない。家族の再生をただひたすら信じ、親友と共に妹の行方を探し続ける-早川書房創立65周年&ハヤカワ文庫40周年記念作品。英国推理作家協会賞受賞。

双子の妹を少年が執念の捜索

著者のジョン・ハートは、デビュー作『キングの死』で米国探偵作家クラブ賞最優秀新人賞の候補に残り、次作の『川は静かに流れ』で最優秀長編賞を受賞した。3作目の本書も、英国推理作家協会最優秀スリラー賞を受賞したそうだから、久びさの大型新人作家といってよい(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2010年)。

ハートは、家族の軋轢(あつれき)や崩壊を、好んで取り上げる作家らしく、本書もそれを主要なテーマにしている。タイプは違うが、後期のロス・マクドナルドを彷彿(ほうふつ)させる、重厚な小説である。悪くいえば、妙にブンガク的な作風なのだが、ミステリーとしての骨格もしっかりしており、最後まであきさせない。

主人公ジョニーは13歳の少年で、行方不明になった双子の妹アリッサを、友だちのジャックの手を借りつつ、執拗(しつよう)に捜し続ける。父も、妹がいなくなったあと忽然(こつぜん)と姿を消し、残されたのは母キャサリンと、ジョニーの2人だけ。キャサリンは、土地の有力者ホロウェイの愛人になり、薬づけの毎日を送るという、かなり気の重い設定になっている。

しかし、そこへキャサリンに好意を抱き、ジョニーを気遣う刑事のハントが現れて、ほっとさせられる。この、一見ハードボイルド風のハントの存在が、なかなかいい。また、自堕落な母キャサリンにも、どこか毅然(きぜん)としたところが残って、憎めない魅力がある。この2人の造形が、本書の大きな収穫だろう。

事件は子供の失踪(しっそう)が相次ぎ、さらに複数の遺体が発見されるにいたって、異常犯罪者の犯行と分かる。ジョニーは、アリッサもその犠牲になったのでは、と必死に捜索を続ける。その執念が、物語をぐいぐいと引っ張る、大きな力として働く。

かならずしも、ハッピーエンドには終わらないが、崩壊した家族が別のかたちで再生しそうな予感を抱かせる締めは、この重い小説の救いになった。キャサリンにとって、残されたジョニーが〈ラスト・チャイルド〉なのだが、そのジョニーが一度は決裂したジャックと、仲直りするラストはすがすがしく、読後感を爽快(そうかい)なものにした。
ラスト・チャイルド 上 / ジョン・ハート
ラスト・チャイルド 上
  • 著者:ジョン・ハート
  • 翻訳:東野 さやか
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(367ページ)
  • 発売日:2010-04-30
  • ISBN-10:4151767037
  • ISBN-13:978-4151767036
内容紹介:
少年ジョニーの人生はある事件を境に一変した。優しい両親と瓜二つのふたごの妹アリッサと平穏に暮らす幸福の日々が、妹の誘拐によって突如失われたのだ。事件後まもなく父が謎の失踪を遂げ、… もっと読む
少年ジョニーの人生はある事件を境に一変した。優しい両親と瓜二つのふたごの妹アリッサと平穏に暮らす幸福の日々が、妹の誘拐によって突如失われたのだ。事件後まもなく父が謎の失踪を遂げ、母は薬物に溺れるように…。少年の家族は完全に崩壊した。だが彼はくじけない。家族の再生をただひたすら信じ、親友と共に妹の行方を探し続ける-早川書房創立65周年&ハヤカワ文庫40周年記念作品。英国推理作家協会賞受賞。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2010年5月30日

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