書評
『ゴミにまみれて』(筑摩書房)
現代人に対する静かな告発
本書のテーマはゴミである。同時に、清掃作業員の心の物語でもある。さらに荒廃した現代人に対する静かな告発でもある。ゴミを収集していて、つかんだ袋が動いたので驚いて破くと生まれたばかりの子猫が三匹。エイズで問題になっているのに注射針が手にチクリと刺さったこともあった。ビンを投入口へ放り込んだら割れて強烈な刺激臭がする。オウムの毒ガス騒ぎではないがノドがヒリヒリし眼が充血、思わず路上にうずくまる。農薬が原因の場合もあれば、どんな有毒物かさえわからずじまいのときも少なくない。まだ使える電化製品などめずらしくもないが、新巻き鮭(さけ)やチーズやハムの詰め合わせ、化学調味料セットなど、お中元やお歳暮がそのまま封も切らずに棄ててあると、どういうつもりか、理解しかねるだろう。自分の口に合わないなら隣組に配ってもいいのに。
各家庭、飲食店、ホテル、病院など、日本全国で一年間に一千万トンの食べ残しが出される。この数字は日本の米の生産量に匹敵するのだ……。
本書の帯に、「この文章に誘発されて、僕は『北の国から’95秘密』を書いた」と倉本聰の推薦文が載っている。著者は、大学を出てから四年間「映画界のまわりをウロウロし、助監督の助手のそのまた助手というようなことを数回くり返し」、展望がないとわかってから地方自治体の清掃作業員の仕事に就いた。どこへも行くところがなく、消極的な気分で清掃員になった。当初は仕事がいやでたまらなかった。だがしだいにプロ意識に目覚めてくる。以来十年ほど清掃の現場にいて、見たこと感じたことをミニコミ誌に記した。その連載が倉本のシナリオにインスピレーションを与えたらしい。
僕は時間がなくて、娘がせっかく録画したVTRを机の隅に積んだままにしている。つまりテレビドラマと無関係に本書を読んだわけだが、この自伝風の現場報告だけですでに独立したドラマなのだというのが読後感である。
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