書評

『ロミー・シュナイダー事件』(集英社)

  • 2020/06/30
ロミー・シュナイダー事件 / ミヒャエル ユルクス
ロミー・シュナイダー事件
  • 著者:ミヒャエル ユルクス
  • 翻訳:平野 卿子
  • 出版社:集英社
  • 装丁:単行本(318ページ)
  • 発売日:1996-08-01
  • ISBN-10:4087732541
  • ISBN-13:978-4087732542
内容紹介:
1982年5月、ドイツが生んだ世界的な映画女優ロミー・シュナイダーは、パリで謎の死をとげた-彼女の43年間の私生活は、華やかな活躍に反してけっして平担ではなかった。アラン・ドロンとの激しい恋と別離。自殺末遂。その後のさまざまな男たちとの不幸な恋。息子の無残な死。最初の夫の自殺。そして…。本書は親友だった元『シュテルン』編集長が、スターの伝説の陰に隠れていた驚くべき事実に光をあてた問題作である。

ある女優の死

ロミー・シュナイダーは魅惑的だった。「夕なぎ」「離愁」「ルートヴィヒ」……凛として気品高く、虚飾のない自由な女。四十二歳の突然の死からもう十五年もたつのか、と感慨深い(ALLREVIEWS事務局注:本書評執筆時期は1996年頃)。『ロミー・シュナイダー事件』(ミヒャエル・ユルクス著、平野卿子訳、集英社)はドイツでベストセラーになったロミーの伝記である。なぜ「事件」と銘うったのか。すなわちロミーの死がどうも自然死とはいいにくいからである。他殺ではない。自殺でもない。しかし読んでいるとその両方ではなかったかと思う。他者からの脅迫、恐喝と内部からの精神の崩壊と。それを描くため著者は、アンナというジャーナリストを設定、彼女が「ロミー・シュナイダー事件」の連載をある雑誌に書く、というフィクションの部分を一章おきに挿入する。

ノンフィクションの伝記部分は、雑誌「シュテルン」の編集長だった著者が綿密なデータを駆使して正確に書いているが、それはアンナが書いた記事とも読め、一方、仮定や推理はフィクションの章で自由に羽ばたかせられる。この手法はかなりアクロバティックだが、本書の場合、必然的であり、成功しているといえよう。すなわちロミーを「間接的に殺した」連中は生存していて、何ら刑事罰を適用されていないからである。著者ユルクスはジャーナリズムによって彼らを社会的に断罪しようとした。

ロミーは女優としては「このうえなく成功」したけれど、「私生活はまったくダメな人」だった。生みの父親には捨てられ、育ての父親に誘惑され、二度の結婚は破綻して、財産をめぐって争いになった。数多くの恋愛リストは、最後まで愛したアラン・ドロンをはじめ、カラヤン、ブラント首相、ブルーノ・ガンツ、そして同性愛者でもあったから、ココ・シャネルやシモーヌ・シニョレの名がある。もちろん無名の恋人もいた。撮影中、監督は彼女にあてがう男を用意さえした。

なんて寂しい女性だろう。子ども時代の不幸を追い、スターになれるだろうか、いつまでスターでいられるかという不安とたたかい、彼女からうまい汁を吸おうという人間はたくさんいた。最初の夫は自殺、最愛の息子は突然死。こんな環境でロミーはアルコールと薬物にはまり込んでゆく。そして、半裸で麻薬をやっているビデオをネタに二番目の夫ビッシーニからゆすられていたことを本書は暗示する。

もう一つの通奏低音は、ロミーへのドイツ人の仮借なさである。ドイツはアラン・ドロンに走って祖国を捨てた彼女を許さなかった。ドイツ人でありながらナチスに抗し、SS(親衛隊)に犯される女を演じたロミーを許さなかった。本書は深い同情をもって華麗なスターの寂しい実生活を描くとともに、ドイツの触れられたくない狭量な戦後史をも浮き彫りにする。

ロミーは言った。

「しあわせのなかでだらしなく眠りこけているより、ふしあわせな情熱のほうがましよ」

【この書評が収録されている書籍】
深夜快読 / 森 まゆみ
深夜快読
  • 著者:森 まゆみ
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:単行本(269ページ)
  • 発売日:1998-05-01
  • ISBN-10:4480816046
  • ISBN-13:978-4480816047
内容紹介:
本の中の人物に憧れ、本を読んで世界を旅する。心弱く落ち込むときも、本のおかげで立ち直った…。家事が片付き、子どもたちが寝静まると、私の時間。至福の時を過ごした本の書評を編む。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

ロミー・シュナイダー事件 / ミヒャエル ユルクス
ロミー・シュナイダー事件
  • 著者:ミヒャエル ユルクス
  • 翻訳:平野 卿子
  • 出版社:集英社
  • 装丁:単行本(318ページ)
  • 発売日:1996-08-01
  • ISBN-10:4087732541
  • ISBN-13:978-4087732542
内容紹介:
1982年5月、ドイツが生んだ世界的な映画女優ロミー・シュナイダーは、パリで謎の死をとげた-彼女の43年間の私生活は、華やかな活躍に反してけっして平担ではなかった。アラン・ドロンとの激しい恋と別離。自殺末遂。その後のさまざまな男たちとの不幸な恋。息子の無残な死。最初の夫の自殺。そして…。本書は親友だった元『シュテルン』編集長が、スターの伝説の陰に隠れていた驚くべき事実に光をあてた問題作である。

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週刊エコノミスト

週刊エコノミスト 1993~1996年

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