明治百話
- 著者:篠田 鉱造
- 出版社:岩波書店
- 装丁:文庫(297ページ)
- 発売日:1996-08-20
- ISBN-10:4003346939
- ISBN-13:978-4003346938
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幕末から維新へかけての古老の話は奇抜で、珍妙で、想像もつかない面白いことずくめであった。世の中がコセコセせず、悠暢であった。
祖父母逝き、父母老いて、そうした話が繰返されなくなってから、俄かにその話が聞きたくなった。(『幕末百話』)
私は実話は実話でも、実話聴取と同時に、その気分を取入れないものは、実話でないという主義です。
今の溜池の電車通りが、溜池の沼で、星ケ岡の山王の森を見晴し、景色がとてもよい時代でした。渡船があって、文久で渡し、後ち五厘となったもので、蓮ほりの爺さんが内職に船を漕いでいました。
そうしたのんきさが「洒落ッ気」といって、江戸の文化文政度から、明治の初年に伝わり文明開化の欧米風に反抗したものでした。反抗したというと、大袈裟ですが、なろうことならチョン髷あたまに、上下(かみしも)でもつけて、こうしたのんきな旧幕の風俗を、形式にも精神にも維持しようとした。