書評

『語前語後』(朝日新聞出版)

  • 2021/01/17
語前語後 / 安野 光雅
語前語後
  • 著者:安野 光雅
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:単行本(226ページ)
  • 発売日:2008-11-20
  • ISBN-10:4022505133
  • ISBN-13:978-4022505132
内容紹介:
見た。聞いた。考えた。世界を駆ける画家がつづる253の見聞記。数学者・森毅との"幻の対談"を巻末に収録。菊池寛賞受賞。

“自分ノート”、卓越した知性で面白く

自分史を綴ることがはやっている。いや、本当はそんなに、はやっていないのかもしれない。挑戦してみたけれど、なかなかうまく書けない。途中であきらめてしまう。それが実情ではあるまいか。たとえ自分のことであっても、長い一生を、煩雑な半生を、それなりにまとめて書きあげるのはむつかしい(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2009年)。

――じゃあ、これはどうかな――

本書を読んで、ふと考えた。安野光雅はこの手のエッセーをすでにいくつか上梓しているようだが、それはともかく内容的には、つね日ごろ“こころにうつりゆくよしなしごと”を記したメモランダム、自分ノートとでも呼べばよいのだろうか。

巻末の対談“絵描きと数学者の出会い”を除けば、172ページが253の断片から成っている。思いついたこと、見聞したこと、などなどを10行、20行で綴っている。それがおもしろい。たとえば、“落語家の立川談四楼は、「儲けるという字は『信者』とある。宗教が儲かるわけだ」と言うのだった。人の為、と書いて「偽り」とは、以前書いたことがある。ウ冠は家を表すが、そこに百人が来ると「宿」となる。これなんぞは罪が軽い”。

わたしが初めて外国に行ったころは、一ドルが三六〇円だったが、今は一〇五円~一〇八円くらい(中略)。変われば変わるものだと知人と話していたら、初め為替相場をつくるにあたり、円をどの程度に見積もっていいか分からないので、「なにしろ円だから、三六〇度という手もある。だから三六〇円にしておこう」という話があったそう。

ミシュランも、お国のフランスだけでやっていればいいのに、日本に来てまで採点するのは、おおきなお世話というものではないか。

こんな調子で満載されている。おもしろいのは安野の卓越した知性のせいだろうけれど、これならばまねができないこともない、自分自身の頭に対するブレーンストーミング、気づいたこと、腹が立ったこと、どんどん綴っておけば、よい記録になる。自分史よりらくだ。

【文庫版・自選ベストエッセイ集】
新編 語前語後 / 安野光雅
新編 語前語後
  • 著者:安野光雅
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:文庫(306ページ)
  • 発売日:2013-08-07
  • ISBN-10:4022647140
  • ISBN-13:978-4022647146
内容紹介:
【文学/随筆】『絵のある自伝』でその卓越した感性が改めて注目を集めた世界的な画家が、絵についてはもちろん、司馬遼太郎らとの交流や、日々の気づきなどを、絵描きならではの視点と豊かな好奇心から綴る。『村の広場』と『語前語後』から自選したベストエッセイ集。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

語前語後 / 安野 光雅
語前語後
  • 著者:安野 光雅
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:単行本(226ページ)
  • 発売日:2008-11-20
  • ISBN-10:4022505133
  • ISBN-13:978-4022505132
内容紹介:
見た。聞いた。考えた。世界を駆ける画家がつづる253の見聞記。数学者・森毅との"幻の対談"を巻末に収録。菊池寛賞受賞。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2009年01月18日

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