書評
『カニバル』(青土社)
昨今のアメリカの例を見るまでもなく、強者は往々にして無神経で無邪気な存在なんである。
一九三一年、パリで開催された植民地博覧会。それは、動物から“未開人種”、そして文明の頂点にいるフランスへという“進化”の構図を目に見える形で展示するために、植民地から強制的に先住民を拉致し、見世物にした野蛮きわまりない試みだった。ところが、開会間近になってワニが全滅。開催側はフランクフルトのサーカスにいるワニと、ニューカレドニアから連れてきたカナック族の数名を一時的に交換。かくして、カナックの人々は、「食人種」としてヨーロッパ中の好奇の目にさらされた――何と、これが史実なのだ!
作者のデナンクスは、この歴史の闇に沈んだ事実を、フランクフルトに移送された許嫁ミノエを追う青年ゴセネの冒険活劇というフィクションを加えることで、一級品の文学作品として世界に再提示。無理やり連れてきた挙げ句、檻に押し込め、犬の餌のような食物しか与えず、寒い中、腰蓑ひとつで咆哮させる。この強者の身勝手かつ非人道的な振る舞いに対し、デナンクスは言葉の鋭い切っ先を向ける。そして、選び抜いた端正な文体が生み出す短いながらも強靱な物語によって、強者の傲りに強烈な一撃をかましてくれるのだ。
また、この物語を自分とは関係ないものとして遠巻きに楽しむ読者には、こんな痛い一発をくらわしもする。「人は行動を起こす前にあれこれ考える。それがいざというときに何もしない格好の口実になってしまう」という、警官からゴセネをかばったために自らも捕まってしまう白人男性が発する言葉によって。天国に一番近い島として日本人観光客が押し寄せる彼の地ニューカレドニアの、別の貌をこの一冊で知るべきなんである。
【この書評が収録されている書籍】
一九三一年、パリで開催された植民地博覧会。それは、動物から“未開人種”、そして文明の頂点にいるフランスへという“進化”の構図を目に見える形で展示するために、植民地から強制的に先住民を拉致し、見世物にした野蛮きわまりない試みだった。ところが、開会間近になってワニが全滅。開催側はフランクフルトのサーカスにいるワニと、ニューカレドニアから連れてきたカナック族の数名を一時的に交換。かくして、カナックの人々は、「食人種」としてヨーロッパ中の好奇の目にさらされた――何と、これが史実なのだ!
作者のデナンクスは、この歴史の闇に沈んだ事実を、フランクフルトに移送された許嫁ミノエを追う青年ゴセネの冒険活劇というフィクションを加えることで、一級品の文学作品として世界に再提示。無理やり連れてきた挙げ句、檻に押し込め、犬の餌のような食物しか与えず、寒い中、腰蓑ひとつで咆哮させる。この強者の身勝手かつ非人道的な振る舞いに対し、デナンクスは言葉の鋭い切っ先を向ける。そして、選び抜いた端正な文体が生み出す短いながらも強靱な物語によって、強者の傲りに強烈な一撃をかましてくれるのだ。
また、この物語を自分とは関係ないものとして遠巻きに楽しむ読者には、こんな痛い一発をくらわしもする。「人は行動を起こす前にあれこれ考える。それがいざというときに何もしない格好の口実になってしまう」という、警官からゴセネをかばったために自らも捕まってしまう白人男性が発する言葉によって。天国に一番近い島として日本人観光客が押し寄せる彼の地ニューカレドニアの、別の貌をこの一冊で知るべきなんである。
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