書評
『灰色の魂』(みすず書房)
第一次世界大戦下のフランスの田舎町。純真無垢な十歳の少女の死体が発見される。脱走兵が逮捕され、激しい拷問で自白に追いこまれる。だが「私」は町の名士である検察官に疑いをかける。検察官の屋敷の一隅に住まいを借りた美しい女教師が自殺するという事件も明るみに出る。この二つの死の関係は?……
白黒のペン画のように淡々と、だが細緻な銅版画のようにくっきりと、町の風景と住民の生態が描かれ、そこから、検察官と女教師と「私」の抱えこんだ魂の暗黒が浮かびあがってくる。謎解きはあまりにあっけなく訪れるが、読後の印象はやるせなく重い。
かつて若き山田風太郎はミステリーの特徴を「割り切れる」ことだとした。だが、動機がいつも割り切れるなら、ミステリーは所詮二流の小説にすぎない。そう言い残して山田青年はミステリー界を去った。『灰色の魂』の動機は必ずしも割り切れない。そこが一流の小説たる所以である。
白黒のペン画のように淡々と、だが細緻な銅版画のようにくっきりと、町の風景と住民の生態が描かれ、そこから、検察官と女教師と「私」の抱えこんだ魂の暗黒が浮かびあがってくる。謎解きはあまりにあっけなく訪れるが、読後の印象はやるせなく重い。
かつて若き山田風太郎はミステリーの特徴を「割り切れる」ことだとした。だが、動機がいつも割り切れるなら、ミステリーは所詮二流の小説にすぎない。そう言い残して山田青年はミステリー界を去った。『灰色の魂』の動機は必ずしも割り切れない。そこが一流の小説たる所以である。
朝日新聞 2004年12月5日
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