選評

『オリンピックの身代金』(角川グループパブリッシング)

  • 2017/07/10
オリンピックの身代金 / 奥田 英朗
オリンピックの身代金
  • 著者:奥田 英朗
  • 出版社:角川グループパブリッシング
  • 装丁:単行本(524ページ)
  • 発売日:2008-11-28
  • ISBN:4048738992
内容紹介:
昭和39年夏。10月に開催されるオリンピックに向け、世界に冠たる大都市に変貌を遂げつつある首都・東京。この戦後最大のイベントの成功を望まない国民は誰一人としていない。そんな気運が高まるなか、警察を狙った爆破事件が発生。同時に「東京オリンピックを妨害する」という脅迫状が当局に届けられた!しかし、この事件は国民に知らされることがなかった。警視庁の刑事たちが極秘裏に事件を追うと、一人の東大生の存在が捜査線上に浮かぶ…。「昭和」が最も熱を帯びていた時代を、圧倒的スケールと緻密な描写で描ききる、エンタテインメント巨編。

吉川英治文学賞(第43回)

受賞作=奥田英朗「オリンピックの身代金」/他の選考委員=五木寛之、北方謙三、林真理子、平岩弓枝、宮城谷昌光、渡辺淳一/主催=吉川英治国民文化振興会/発表=「小説現代」二〇〇九年五月号

やるせない関係

昭和三十九年(一九六四)の秋、東京オリンピックの開会式はなにごともなく無事に終わった。そこで、〈オリンピックを人質にとって、八千万円を要求し、その要求が容れられなければ、開会式でダイナマイトを爆発させ、国家の面目を失わせてやる〉という、本作の主人公たちの企てが失敗することは、読む前からわかっている。したがって読者は、主人公たちがどのようにして失敗したかに力点を置いて頁をめくることになるが、その期待は、作者の用いた叙述方法によって充たされる。

作者は、二つの物語を用意した。第一は、主人公たちが仕掛けた予告的な事件の解明を急ぐ国家装置の、時間の流れに沿った動き。第二は、主人公たちが国家的行事を妨害しようと決意するに至るまでの個人史と、その実行についての詳細な報告。この二つが次第に接近、やがて絡み合いながら、山場の開会式をめざして一つになって行く叙述が力感にあふれていて、読者をわくわくさせる。すなわち国家と個人の関係をおもしろく物語化してみせたところが、作者の手柄である。

開会式の爆破に失敗した真の原因が、じつは主人公たちの友情にあったというのも、皮肉な結末だ。親子の情愛にも似た篤い友情が、結局は国家を守ることになるわけだから、なんだかやるせない話だが、いつだって、国家とわたしたちとの関係はやるせないものなのだから、これは一面の真理を言い当てた作品でもあった。力作である。

【文庫版】
オリンピックの身代金  / 奥田 英朗
オリンピックの身代金
  • 著者:奥田 英朗
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(480ページ)
  • 発売日:2014-11-14
  • ISBN:4062779668
内容紹介:
人質は「東京五輪」。富と繁栄を享受する「東京」に一人の青年が牙を剥いた――吉川英治文学賞受賞作

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【この選評が収録されている書籍】
井上ひさし全選評 / 井上 ひさし
井上ひさし全選評
  • 著者:井上 ひさし
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(821ページ)
  • ISBN:4560080380
内容紹介:
2009年までの36年間、延べ370余にわたる選考会に出席。白熱の全選評が浮き彫りにする、文学・演劇の新たな成果。

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オリンピックの身代金 / 奥田 英朗
オリンピックの身代金
  • 著者:奥田 英朗
  • 出版社:角川グループパブリッシング
  • 装丁:単行本(524ページ)
  • 発売日:2008-11-28
  • ISBN:4048738992
内容紹介:
昭和39年夏。10月に開催されるオリンピックに向け、世界に冠たる大都市に変貌を遂げつつある首都・東京。この戦後最大のイベントの成功を望まない国民は誰一人としていない。そんな気運が高まるなか、警察を狙った爆破事件が発生。同時に「東京オリンピックを妨害する」という脅迫状が当局に届けられた!しかし、この事件は国民に知らされることがなかった。警視庁の刑事たちが極秘裏に事件を追うと、一人の東大生の存在が捜査線上に浮かぶ…。「昭和」が最も熱を帯びていた時代を、圧倒的スケールと緻密な描写で描ききる、エンタテインメント巨編。

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初出メディア

小説現代

小説現代 2009年5月

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