書評

『サウスバウンド』(講談社)

  • 2024/04/16
サウスバウンド / 奥田 英朗
サウスバウンド
  • 著者:奥田 英朗
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(672ページ)
  • 発売日:2014-10-15
  • ISBN-10:4062779358
  • ISBN-13:978-4062779357
内容紹介:
父は国家権力が大嫌い。どうやらその筋では有名な元過激派で、学校なんて行くなと言ったり、担任の先生にからんだり、とにかくムチャクチャだ。そんな父が突然、沖縄・西表島(いりおもてじま)に移住すると言い出し、その先でも大騒動に。父はやっぱり変人なのか? それとも勇者? 家族の絆、仲間の絆をユーモラスに描いた傑作長編。

描写に冴え、少年のひと時の冒険物語

 奥田英朗の才能は予断を許さない。

直木賞を取った『空中ブランコ』など、賞のお墨つきで読んだ人は仰天したことだろう。精神科医が活躍するセラピー小説だが、主人公の方がよほど精神に問題があるという問題作なのだ。昨年最笑の小説だったといって過言ではない。

しかし、その前の『邪魔』『最悪』は、ともに同時多発的な犯罪小説で、ひねりにひねったストーリーを語りの超絶技巧で引っぱる鮮やかな手際は、新たなミステリーの名人の誕生を印象づけた。

ところが、今回は少年小説である。これがまた舌を巻くほどうまい。子供から大人へと脱皮する少年の生理と感覚に寄りそい、スピーディーな直球勝負で、彼のひと時の冒険を描きだすのだ。

主人公の二郎は、ごく普通の小学校六年生。ただ一つ普通でないのは、父親が左翼の元活動家で、国民の義務や年金制度や税金、すなわち国家を認めない頑固者だったことだ。はたから見れば相当面白い変わり者だが、二郎にとっては何かにつけて問題を起こす厄介な存在だ。

物語の前半では、真っ当な正義感の持ち主である二郎が、あくどい中学生の恐喝にあい、その災難に、友人たちと立ち向かってゆく。小学六年の心臓の鼓動が聞こえてくるほど生々しくスリリングな語り口が作者の才能の証しだ。

だが、小説が加速するのは後半で、父親が家にかくまった活動家が事件を起こしたことから、二郎の一家はなんと沖縄の西表島に引っ越しすることになる。

この南島で、新たな事件のタネがまかれ、それまで迷惑千万な脇役にすぎなかった父親ががぜん存在感をまし、物語は、二郎の目から見た、思想闘争の趣を帯びてくる。少年がヒーローだから難しい理屈は一切ない。だが、現代のドン・キホーテである父親の行動を触媒にして、自然と文明、個人と国家、ユートピアと権力という根本的な問題が問われるのだ。

父親の開発反対闘争に賛同するおもろいカナダ人など、随所に奥田英朗一流の人物描写も冴えている。自然への憧れを失わない大人のための、苦みのきいた冒険小説としても一級品である。
サウスバウンド / 奥田 英朗
サウスバウンド
  • 著者:奥田 英朗
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(672ページ)
  • 発売日:2014-10-15
  • ISBN-10:4062779358
  • ISBN-13:978-4062779357
内容紹介:
父は国家権力が大嫌い。どうやらその筋では有名な元過激派で、学校なんて行くなと言ったり、担任の先生にからんだり、とにかくムチャクチャだ。そんな父が突然、沖縄・西表島(いりおもてじま)に移住すると言い出し、その先でも大騒動に。父はやっぱり変人なのか? それとも勇者? 家族の絆、仲間の絆をユーモラスに描いた傑作長編。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2005年8月21日

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