書評

『楊家将』(PHP研究所)

  • 2018/03/21
楊家将〈上〉 / 北方 謙三
楊家将〈上〉
  • 著者:北方 謙三
  • 出版社:PHP研究所
  • 装丁:文庫(381ページ)
  • 発売日:2006-07-04
  • ISBN:4569666582
内容紹介:
中国で、「三国志」を超える壮大な歴史ロマンとして人気の「楊家将」。日本では翻訳すら出ていなかったこの物語だが、舞台は10世紀末の中国である。宋に帰順した軍閥・楊家は、領土を北から脅かす遼と対峙するため、北辺の守りについていた。建国の苦悩のなか、伝説の英雄・楊業と息子たちの熱き闘いが始まる。衝撃の登場を果たし、第38回吉川英治文学賞に輝いた北方『楊家将』、待望の文庫化。

吉川英治文学賞(第39回)

受賞作=北方謙三「楊家将(上・下)」/他の選考委員=五木寛之、伊藤桂一、杉本苑子、平岩弓枝、渡辺淳一/主催=吉川英治国民文化振興会/発表=「群像」二〇〇四年五月号

さらに輝かしさをました文体

切れ味のいい、意味の明快な短い文をきびきびと積み上げて気持のよいリズムを刻み、そのリズムに読者を乗せて、いつの間にか途方もなく大きな物語の中へ誘い込んでしまうのが、北方謙三さんの文体の魅力である。

『楊家将』では、その魅力がさらに輝きをまして、やすやすと読者を、中国十世紀末、建国間もないころの宋国へ連れて行くばかりか、その宋と遼との激しい攻防戦を、宋の楊一族の運命と重ねながら、清澄な文章で描き切った。楊一族が、武術にすぐれ戦術にも長けた遼の武将たちと(なかでも「白き狼」の知略はものすごい)どのように戦ったか、その決戦の数々を、映像でもむずかしいのに、よく文章で活写した。これはすさまじいまでの力業である。

合戦場面を描くのに、張扇の音が聞こえてくるような文章では、小説が講談になってしまう。講談が悪いのではない、これまで日本語では合戦場面を語る文体が講談式しかなかったのだ。だが、文体の工夫と革新によって、北方さんは小説で合戦を生き生きと描く。合戦で用いられる戦術の意味、その戦術にしたがって行動する両軍騎馬隊のすばやい動きが、この文体を通してじつによくわかる。戦いの野にたちこめる血の臭い、兵たちの気合い、馬たちの哀しみ、そして戦い終わったあとの原野に立ち込める人間たちの運命の旋律、じつは彼らはみな敗北者なのだが、それらを明確に読者の前に提示することに成功したのは、これはじつに北方さんが苦心した文体の勝利である。

【この書評が収録されている書籍】
井上ひさし全選評 / 井上 ひさし
井上ひさし全選評
  • 著者:井上 ひさし
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(821ページ)
  • ISBN:4560080380
内容紹介:
2009年までの36年間、延べ370余にわたる選考会に出席。白熱の全選評が浮き彫りにする、文学・演劇の新たな成果。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

楊家将〈上〉 / 北方 謙三
楊家将〈上〉
  • 著者:北方 謙三
  • 出版社:PHP研究所
  • 装丁:文庫(381ページ)
  • 発売日:2006-07-04
  • ISBN:4569666582
内容紹介:
中国で、「三国志」を超える壮大な歴史ロマンとして人気の「楊家将」。日本では翻訳すら出ていなかったこの物語だが、舞台は10世紀末の中国である。宋に帰順した軍閥・楊家は、領土を北から脅かす遼と対峙するため、北辺の守りについていた。建国の苦悩のなか、伝説の英雄・楊業と息子たちの熱き闘いが始まる。衝撃の登場を果たし、第38回吉川英治文学賞に輝いた北方『楊家将』、待望の文庫化。

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初出メディア

群像

群像 2004年5月

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