書評
『スペインとスペイン人―“スペイン神話”の解体』(水声社)
毎年ノーベル文学賞の有力候補として名前のあがるスペイン文学の重鎮ゴイティソロは実に多面的な作家だが、円熟期の最大の主題はスペインの歴史の再検討だった。本書はその一群の作品の源泉となったスペイン人論である。
通俗的な歴史観では、スペインはイスラム教徒とユダヤ人を駆逐したことによって純血のカトリックの国になったとされる。異教的な要素は異端審問所などを通して徹底的に弾圧され排除されたが、実はそれは隠蔽されて残存し、イスラム、ユダヤ、キリストの三宗教の並存こそがスペインの美質を生んだとゴイティソロは分析する。そして、純血意識や多様性の排除こそがスペインの後進性を決定づけ、スペイン内戦のみならず、現代まで続くさまざまな対立の原因となったという。そのひとつが、十八か月以内に独立すると宣言しているカタルニアの分離独立問題だろう。
ある国の伝統と呼ばれるものは現実に存在するものではなく、支配層の願望にすぎない、という冷徹な分析は、日本の伝統を考える上でも参考になる。彼の小説をもっと読みたくなる。
通俗的な歴史観では、スペインはイスラム教徒とユダヤ人を駆逐したことによって純血のカトリックの国になったとされる。異教的な要素は異端審問所などを通して徹底的に弾圧され排除されたが、実はそれは隠蔽されて残存し、イスラム、ユダヤ、キリストの三宗教の並存こそがスペインの美質を生んだとゴイティソロは分析する。そして、純血意識や多様性の排除こそがスペインの後進性を決定づけ、スペイン内戦のみならず、現代まで続くさまざまな対立の原因となったという。そのひとつが、十八か月以内に独立すると宣言しているカタルニアの分離独立問題だろう。
ある国の伝統と呼ばれるものは現実に存在するものではなく、支配層の願望にすぎない、という冷徹な分析は、日本の伝統を考える上でも参考になる。彼の小説をもっと読みたくなる。