書評

『横浜 歴史と文化 ―開港150周年記念』(有隣堂)

  • 2023/05/06
横浜 歴史と文化 ―開港150周年記念 /
横浜 歴史と文化 ―開港150周年記念
  • 編集:財団法人横浜市ふるさと歴史財団
  • 監修:高村 直助
  • 出版社:有隣堂
  • 装丁:大型本(352ページ)
  • 発売日:2009-05-30
  • ISBN-10:4896602056
  • ISBN-13:978-4896602050
内容紹介:
安政6年(1859)の開港当時、半農半漁の寒村だった横浜は今、人口360万人を超えるわが国第2の都市へと発展した。本書は横浜市歴史博物館や横浜開港資料館、横浜都市発展記念館などで活躍する研究… もっと読む
安政6年(1859)の開港当時、半農半漁の寒村だった横浜は今、人口360万人を超えるわが国第2の都市へと発展した。本書は横浜市歴史博物館や横浜開港資料館、横浜都市発展記念館などで活躍する研究者34名が、原始・古代から現代までの横浜の歴史と文化を約850点のカラー図版を用いて紹介する。 横浜の歴史の流れを通史的に辿る「総説」、重要な出来事を紹介する100項目の「解説編」、縄文土器・中世仏像・黒船絵巻・浮世絵・彩色写真・大正~昭和の風景画・歴史的建造物などの図版資料を駆使した35項目の「図版特集」で構成。

通史でみるヨコハマの光と波

開港百五十年で賑(にぎ)わう横浜の歴史と文化を、オールカラー全三五〇ページに記す大作である。安政六年六月二日(一八五九年七月一日)、日米通商条約で取り決められた開港地「神奈川」が開かれた。これが近代横浜の出発である。

本書はその近代横浜の発展を「国際港都の誕生」「市制施行から『大横浜』へ」「戦災都市から三六〇万都市へ」という流れで描いてゆく。

当初、神奈川宿近くの神奈川湊(みなと)をアメリカ総領事のハリスは要求していたのだが、幕府は東海道沿いにある神奈川湊を嫌い、対岸の横浜を開港場として新たに建設していった。ハリスは反対したものの、そこに進出してきた欧米の商人たちも、港湾としての条件がよかった横浜を望み、以後、国際港都として発展してゆく。

欧米の文化・経済と日本の文化・経済とがこの地で交流をとげながら、横浜は飛躍的に発展してゆくが、そのさまを本書は瓦版や絵地図・浮世絵・写真・絵葉書など豊富なビジュアル史料を使って、さらにまた、文明開化を担ってきた新聞・建築、土木・交通遺構などによって跡づけている。

横浜にはあらゆるモノとヒトが集まってきた。一攫千金(いっかくせんきん)を狙う商人たちや、駐留軍、宣教師、華僑、遊楽を求めてきた人々など。“頻繁雑踏の甚だしきは、京の新京極を除かば伊勢佐木町は全国に冠たり”というほどに賑わった。本書は、日本第二位の都市へと成長をとげてきたそうした横浜の姿について、大震災や横浜大空襲・大開発による明暗なども描き、叙述は美空ひばりや「ブルー・ライト・ヨコハマ」にまで及んでいる。

書き手は旧英国総領事館の建物に開館した横浜開港資料館や横浜都市発展記念館の関係者で、その知見があますところなく生かされている。しかし本書の大きな特徴は、縄文時代から江戸時代までの開港以前の横浜の歴史も描いているところにある。「ムラからクニへ」「東国武士の世界」「江戸近郊の宿と村」などの三章がそれであるが、これらは横浜市立歴史博物館の関係者によって書かれていて、あたかも歴史博物館の通史展示を見ているかの感がある。

テーマごとに見開き二ページがあてられているので、読みやすい。そのぶん全体の流れがやや単調になった嫌いもあるが、ページをめくるうちに、近代の横浜と以前の横浜とがどういう関係にあったのかを、改めて考えさせられた。

その目で見てゆくと、この二つをつなぐのが神奈川湊であったことがわかってくる。ここは鎌倉幕府が生まれた頃から、東京湾・鎌倉・西日本を結ぶ湊町として発展しており、鎌倉と各地を結ぶ鎌倉道も通過していた。戦国時代には、小田原北条氏の支城の小机城が近くに築かれており、江戸時代になると、東海道の宿とされ、江戸と太平洋岸を結ぶ湊町でもあった。これを踏まえてハリスらは神奈川の開港を要求したわけである。

すなわち交通経済という視点から探ってゆくと、横浜は中世以来、独自の地位を占めてきたのである。近代になって横浜道や蒸気船が京浜間を結び、最初の鉄道が新橋・品川・横浜間を通されたのもその点をよく物語っており、ついには世界の各国を結ぶ国際航路も生まれた。

そうした時、私の目に浮かんできたのは、神奈川沖の海から富士山を描いた、葛飾北斎の富嶽三十六景の「神奈川沖浪裏」である。残念ながらこの図は本書に載っていないが、私にはこれが神奈川・横浜の動きを象徴しているかのように思えてならなかった。
横浜 歴史と文化 ―開港150周年記念 /
横浜 歴史と文化 ―開港150周年記念
  • 編集:財団法人横浜市ふるさと歴史財団
  • 監修:高村 直助
  • 出版社:有隣堂
  • 装丁:大型本(352ページ)
  • 発売日:2009-05-30
  • ISBN-10:4896602056
  • ISBN-13:978-4896602050
内容紹介:
安政6年(1859)の開港当時、半農半漁の寒村だった横浜は今、人口360万人を超えるわが国第2の都市へと発展した。本書は横浜市歴史博物館や横浜開港資料館、横浜都市発展記念館などで活躍する研究… もっと読む
安政6年(1859)の開港当時、半農半漁の寒村だった横浜は今、人口360万人を超えるわが国第2の都市へと発展した。本書は横浜市歴史博物館や横浜開港資料館、横浜都市発展記念館などで活躍する研究者34名が、原始・古代から現代までの横浜の歴史と文化を約850点のカラー図版を用いて紹介する。 横浜の歴史の流れを通史的に辿る「総説」、重要な出来事を紹介する100項目の「解説編」、縄文土器・中世仏像・黒船絵巻・浮世絵・彩色写真・大正~昭和の風景画・歴史的建造物などの図版資料を駆使した35項目の「図版特集」で構成。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2009年7月19日

毎日新聞のニュース・情報サイト。事件や話題、経済や政治のニュース、スポーツや芸能、映画などのエンターテインメントの最新ニュースを掲載しています。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
五味 文彦の書評/解説/選評
ページトップへ