書評

『政治改革再考 :変貌を遂げた国家の軌跡』(新潮社)

  • 2020/08/26
政治改革再考 :変貌を遂げた国家の軌跡 / 待鳥 聡史
政治改革再考 :変貌を遂げた国家の軌跡
  • 著者:待鳥 聡史
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(319ページ)
  • 発売日:2020-05-27
  • ISBN-10:4106038544
  • ISBN-13:978-4106038549
内容紹介:
政治改革という名の静かなる激変。選挙制度、行政システム、司法、地方分権……憲法改正どころではない国家改造の三〇年を読み解く!

再発見されたこの国の転換

時代とは、そのなかに生きている人間には見えないものなのかもしれない。時代という生きた統一体は、そこから一定度の距離を隔てて、正確な史観と、それを育む思想を持つ人の目にしか映じないものらしい。そんなことを思わせるほど、この本は現代政治史の希有の意欲作であり、成功作になっている。

著者によれば一九九〇年代以降、日本では立法、行政、金融、司法、地方自治にわたって、つまりは政治の全体にわたって大改革が進められた。この時代は長らく否定的に捉えられ、「失われた二〇年」「三〇年」と呼ばれることが多かった。とくに目立った選挙改革については、政治学者にも「熱病」にすぎなかったと切り捨て、時流に乗る一部政治家の暴走だったと矮小(わいしょう)化する風潮がある。

だが著者が見るところ、この間の改革は政治の本質に及び、互いに連携する整合性を帯びて、日本社会を一つの方向へと変えるものであった。その意義は明治の憲法発布、昭和の新憲法制定にも並ぶ、日本近代化の一大前進だったと著者は声を励ますのである。

著者の独自性は、多岐にわたる改革を総合的に捉える視野にあって、個別の変革の成果についてもその観点からの評価を忘れない。たとえば九四年の細川護熙政権下の選挙制度改革は、二大政党による政権交代という理想にはさほど貢献しなかった。だがこれによる小選挙区の実現は政党内の秩序を強化し、派閥の弱体化、選挙公約の党内統一を推し進めた。このことは別途の行政改革における官邸主導の強化、各官庁の権限縮小と一本化に符節を合わせている、と待鳥氏は解釈する。

また日本銀行の大蔵省からの自立、司法における人材補給の拡大と裁判員制度、地方自治体の権限強化と市町村合併。いずれを取っても、そこには国民の一層の政治参加、政権の国民にたいする「応答能力」強化という、一貫した意欲を読み取ることができる。

面白いのは、これらの改革が日本の内発的な発想の産物であって、冷戦終結という世界的な変化にも先だって始まっていたという指摘だろう。改革には設計図となる「アイディア」が重要だが、その設計図が日本の内部から生まれた独創だったというのである。

著者は時間的な展望を拡げ、その背後には六〇年代の論壇の新風、「近代主義右派」の台頭があったと主張する。近代主義はかねて論壇左派の持論だったが、この時期、政治、社会、国民の気風を合理化し、近代化に導きたいという志向が体制維持派にも拡がった。これが八〇年代に国際派の経済人に受け継がれ、改革に直結したと著者は考える。

細部は紹介できないが、この本はおびただしい資料を博捜し、個別の人物や事件の描写にも怠りがない。だがあくまでも魅力は主題にあって、その主題を著者が間断なく自覚し続けていることにある。力余って若干の繰り返しも目につくが、それも語ろうとする熱意の表れとして快く読むことができる。

じつは評者自身、かねて八〇年代の日本には大きな節目があって、国民の社会心理に転換があったと考えてきた。これと政治改革がほぼ同時期に起こったことの意味を、あらためて考えてみたいという誘惑に駆られている。
政治改革再考 :変貌を遂げた国家の軌跡 / 待鳥 聡史
政治改革再考 :変貌を遂げた国家の軌跡
  • 著者:待鳥 聡史
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(319ページ)
  • 発売日:2020-05-27
  • ISBN-10:4106038544
  • ISBN-13:978-4106038549
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政治改革という名の静かなる激変。選挙制度、行政システム、司法、地方分権……憲法改正どころではない国家改造の三〇年を読み解く!

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2020年7月4日

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