書評

『フェノメナ―幻象博物館』(創林社)

  • 2017/07/12
フェノメナ―幻象博物館 / R.リカード,J・ミッチェル
フェノメナ―幻象博物館
  • 著者:R.リカード,J・ミッチェル
  • 翻訳:村田 薫
  • 出版社:創林社
  • 装丁:単行本(246ページ)

功利的な怪談

新春のアメリカ映画『フューリー』では、思春期の少年少女がサイコキネティック現象を援用して自由自在に人を出血させたり、騒霊を操ったり、テレパシーや予言をしてみせたり、要するに映画製作者がかなりの見世物師精神を発揮して、超能力のサーカスもしくはアクロバットをふんだんに見せてくれた。それを見た気分の延長で読んだので、「フェノメナ」(幻象博物館)と題するこの本は、縁日の因果物か旅回りの曲馬団を見ているように、ごく気楽に娯しんだことだ(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は1978年)。

空の上から蛙がざあざあ降ってきたり、人間がひとりでに発火して消滅してしまったり、何千キロの空間を越えて遠くにいる人がひょっこり出現したり、そのほか動物変身、妖精、虚空に浮ぶ島、等々。ひと頃のオカルト・ブームの演目がずらりと並んでいると思えばいい。ただし、例のオカルト・ブームそのものは看板に偽りありで、こうした奇象幻象はかならずしもオカルトと直接の関係はない。オカルトまたはオカルティズムは、何よりも哲学であって、ブームになった方の「オカルト」の正体はむしろこの本の対象になった超常現象である。つまり、民俗学の対象やジャーナリズムの素材と同じような第一次資料であって、体系立った世界観というにはまだあまりにもなまなましい。もっとも、こうした第一次資料を分類整理して科学的に体系立てようとする動きもないではなくて、この方は「超心理学(パラサイコロジー)」と称され、西独やアメリカの大学には専門の講座もあるから、内界の民俗学として公認されつつあるのだろう。

この種の本を読んでいてシラけるのは、伝統的科学からの批判や論争にたいする防衛の姿勢のためか、妙に力んでムキになり、かえって幻談のリアリティーを殺いでしまうことだ。その点、第一次資料をできるだけ列記するのを目安にしたらしい編集はまずまずの出来。つまり、幻談として面白可笑しく読みとばす不信心者への適当な配慮もある、ということである。

ただ終章まで来て、「『表徴・凶兆・怪物省』なる政府機関が新設されて、私たちの資料を収集し、分類調査して、その関連を調べる」ことを勧めている論旨を読むと、いささか興ザメである。映画『フューリー』でも政府機関が超能力者を国際紛争を操るシークレット・サービス要員に仕立てて、中野学校式の特訓を詰め込んでいる。西洋人というのはどうしてこう功利的なのか。なにもお化けまで実用化しなくてもいいではないか。口直しに私は、田中貢太郎や岡本綺堂の怪談、近刊の百目鬼恭三郎『奇談の時代』に目を通してみた。さすがは東方君子だけあって、君子淡交、お化けとのつき合いはその場限りにサラリととどめて、現実のごたごたには持ち込まない。そういうソフィスティケーションや品格を好む向きには、バタ臭さが鼻につくかもしれない。

【この書評が収録されている書籍】
遊読記―書評集 / 種村 季弘
遊読記―書評集
  • 著者:種村 季弘
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(268ページ)
  • ISBN-10:4309007767
  • ISBN-13:978-4309007762

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フェノメナ―幻象博物館 / R.リカード,J・ミッチェル
フェノメナ―幻象博物館
  • 著者:R.リカード,J・ミッチェル
  • 翻訳:村田 薫
  • 出版社:創林社
  • 装丁:単行本(246ページ)

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週刊文春

週刊文春 1978年9月7日

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