風刺の余地がないほどヒドくて滑稽だった
この国のメディアには、政治に対する風刺が足りない。権力を茶化すことが無駄にタブー視されている。安倍晋三首相が辞意を表明した際に「まずはお疲れさまを言うべき」と権力側を代弁したコメンテーターがいたが、私物化を繰り返した政権下で疲れたのはこっちのほうだ。話題になった『100日後に死ぬワニ』にあやかったタイトルで、3月28日からツイッターで毎日更新された100日分のマンガをまとめたのが本書。
コロナ禍で右往左往した揚げ句、責任を取ろうとしない政府の対応が浮き彫りになる。風刺というか、観察対象がとにかくヒドいものだから、記録するだけで滑稽になる。皮肉を込めて言えば、風刺をさせないほどの政権だったのかもしれない。
そう、そうだった、と、いくつも思い出す。経済対策として、現金給付ではなく、和牛券を配る案が浮上したこと(1日目)。「好き嫌いを言わずにご飯を食べて睡眠さえしておけば少々のことには勝ち抜くように人の体はできている」なんて言っちゃった二階俊博幹事長(15日目)。
検察庁法改正案に抗議を表明した著名人に対し、「歌手やってて知らないかも知れないけど」などとクソリプを送り続けた政治評論家(46日目)。「ノーベル平和賞は安倍総理にこそふさわしい!」などと忠誠を尽くしてきた河井克行元法務大臣が逮捕されると、彼はあっさりと捨てられた(90日目)。
100日では崩壊しなかったが、そのことを受けた「謝罪会見」漫画が滑稽だ。会見場でひとまず謝罪してみせる著者。「責任を痛感」しているものの、安倍総理が何十回もそう言い続けてきたのだから、自分にはまだまだ「チャンスがあるので再チャレンジしようと思います」と宣言する。痛快で真っ当だ。