自民党の裏金問題が明らかとなり、その常習性が疑われたが、当事者たちは、知らなかった、みんなやっていたなどと幼稚な言い逃れを続け、党内でまかり通っていた悪事を隠し通そうとしている。
2019年の参議院選挙時に広島選挙区で起きた、自民党衆議院議員・河井克行が妻・案里を当選させるためにばらまいた裏金は、実に2871万円。結果的に河井夫妻は立件されたが、その原資は何か、6選を目指す自民党の現職がいるにもかかわらず、新たな候補をぶつけたのはなぜか。裏金の存在と党の意向を重ね合わせると、党の重鎮たちの顔が浮かび上がった。
選挙区で配られた自民党の機関紙『自由民主』号外には、「だから河井あんりさん」と銘打って、安倍晋三・菅義偉・二階俊博の顔写真とメッセージが並んでいた。
『ばらまき 選挙と裏金』(中国新聞「決別 金権政治」取材班著・集英社文庫・1100円)は、広島の地元新聞社が地道な取材を続けた結集である。21年に単行本として刊行された作品の文庫化だが、6章分が増補されている。
週刊誌や全国紙に地元の事件のスクープをすっぱ抜かれた悔しさを跳ね返すように、遂(つい)に「安倍晋三をはじめとする当時の安倍政権の幹部4人が主犯の克行に現金6700万円の裏金を提供したという疑惑」の証拠をつかむ。
それが、検察が押収した克行とみられる筆跡による「総理2800 すがっち500 幹事長3300 甘利100」と書かれたメモ。このメモをもとに甘利明を取材するとあっさり認めたが、うっかり口をすべらせたのか、以降は取材に応じなくなった。
取材班のひとり、荒木紀貴が「おわりに」でメディアのあり方を問うている。自分たちが取材を続けたのは、報道が沈静化して「終わった事件」のようになっても、「買収資金の出どころが解明されていなかったから」だと。そこに疑問が残るのならば、その疑問を問い続ける。毛細血管から忍び込み、逆流しながら心臓にたどり着いたような、総力取材に引き込まれる。
【単行本】