不安が加速させる「便利な断絶」
このコロナ禍で制限されたのが移動と接触だ。だが、その双方は、コロナ前から、様々な技術革新によって改められようとしていた部分でもある。わざわざ行かない、わざわざ触れない方法が望まれてきた。韓国のトレンド分析専門家がコロナ禍で記した本書は、アンコンタクト(非接触)の可能性を追求する。「コンタクトとアンコンタクトを織り交ぜながら、より安全で便利につながって生きていきたい」という欲求を強めていた社会に、いきなり「不安」が加わった。「便利」と「不安」は対極に位置するはずが、今、この二つが近接している。
トランプ大統領は、握手=接触によって攻撃的な態度を示してきた。手に力を込めて引き寄せることで、自分の肘を「L字型」に保ちつつ、相手の肘を伸ばす。この構図が写真に載れば、優位に立っている印象を伝えることができる。対面によって生じるコミュニケーション全般をわずらわしく感じ、「便利な断絶を選択する」人たちも増えてきた。とある日本のアパレルブランドでは「声掛け不要」バッグを店頭に置いている。近づかないで欲しい、という意思表示すら直接的にはしないのだ。
アンコンタクト社会では、「似た者同士」の人間関係が強化される。韓国では、感染拡大によって高級ホテルの宿泊客が大幅に減少したが、「別室」「個室」と呼ばれるプライベートルームの予約は急増した。大多数の場を拒否し、「徹底的に少数を管理する」場が不安を払拭する場として機能した。
「アンコンタクト技術は、はなから感情が介入する余地をなくしてくれた」「サービスを受けるにあたって、申し訳なさを感じるのは面倒だ」と分析する著者は、従来の移動・接触・対話を否定的に捉える向きも強く、首肯できない論点もある。だが、コロナ禍での「不安」がいかに非接触を欲し始めたか、その刷新を事細かに知ることができる。