書評
『国家と人種偏見』(阪急コミュニケーションズ)
差別の視点で世界史捉える
憂鬱(ゆううつ)な読後感が残る。といってつまらぬ本なのではない。重いテーマであることが、読み進むうちから、それこそ体にずしりとこたえてくるからだ。人種偏見――これを著者は「二十世紀の難題」とよぶ。「差別の起源は古い」というまことにさりげない一言で始まる本書は、古代から現代までの世界史を、人種偏見の視角からパノラマをくり広げるように展開している。コリン・パウエルが何故大統領選への出馬をとりやめたのか。日韓関係が何故植民地時代の評価をめぐってぎくしゃくするのか。などなど昨今目につく問題の底流に確固として存在するのは、人種偏見に他ならない。ただそれを公式には言わず、また言えないのがこの種の問題の難しさなのだ。どうしてであろうか。本書後半で詳述しているように、戦後五十年の間に人種平等思想は広く世界中に行き渡っていった。しかしそれだけに、人種偏見は奥へ奥へと篭(こも)る結果を招いているからである。
本書は、古今多くの研究者の業績の紹介と批判の上に議論を展開しているが、単に人種偏見を平板に叙述しているわけではない。あからさまな人種偏見と奥へ篭る人種偏見とのダイナミクスの中に、世界史を捉(とら)えようとしている点に特色を持つ。とりわけ本書前半は、第二次世界大戦までという扱う時代の長さに比べてテンポが速くわかりやすい。
ヴァスコ・ダ・ガマの大航海以来強まった人種偏見は、十六世紀の奴隷貿易によって現代までつながる争点を生み出した。そして十九世紀の奴隷貿易の廃止が、民主主義の拡大とダーウィニズムという科学主義の広がりとによって、かえって人種偏見を強めるというパラドクスをもたらす。
二十世紀はいよいよ日本の出番だ。第一次世界大戦後のパリ講和会議における人種差別撤廃をめぐる日本の役割を、著者は過不足なく描き出す。確かに著者の言うように、日本は欧米からの差別を受け、同時にアジアへの差別を行うという特異な立場にあった。その特異性への認識が今日もなお希薄にすぎるのではないか。大蔵雄之助訳。
ALL REVIEWSをフォローする






































