書評

『青い城』(角川グループパブリッシング)

  • 2022/12/22
青い城 / モンゴメリ
青い城
  • 著者:モンゴメリ
  • 翻訳:谷口 由美子
  • 出版社:角川グループパブリッシング
  • 装丁:文庫(350ページ)
  • 発売日:2009-02-25
  • ISBN-10:4042179096
  • ISBN-13:978-4042179092
内容紹介:
貧しい家庭でさびしい日々を送る内気な独身女、ヴァランシーに、以前受診していた医者から手紙が届く。そこには彼女の心臓が危機的状況にあり、余命1年と書かれていた…。悔いのない人生を送ろ… もっと読む
貧しい家庭でさびしい日々を送る内気な独身女、ヴァランシーに、以前受診していた医者から手紙が届く。そこには彼女の心臓が危機的状況にあり、余命1年と書かれていた…。悔いのない人生を送ろうと決意した彼女がとった、とんでもない行動とは!?ピリッと辛口のユーモアで彩られた、周到な伏線とどんでん返し。すべての夢見る女性に贈る、心温まる究極のハッピー・エンディング・ストーリー。

絶望的でロマンティックな独身女性の決意

読みやすい文章で書かれ、わかりやすい出来事が幸不幸とりまぜて次々起こり、でも最後はきっとハッピーエンドだろうから安心して読める、そういう本かと思っていた。あらすじを聞けば、誰もがそう思うのではないだろうか。

一人のオールドミスが、余命一年と知らされる。このままでは淋(さび)しすぎる、と思った彼女は、世間や家族の言いなりになるのはもうやめて、残された日々を好きなように生きようと決める。果敢にそれを実行し、旧弊な親族たちを驚かせながら、ありのままの自分であること、そして愛し愛されることの喜びを発見していく。

すらすら読めそう、と思うではないか。

ところが、ちっともすらすら読めないのだった。まず、読みやすい文章ではない。一つの文に含まれる情報量が多いので理解するのに時間がかかる(ということは優れた文章だ)し、重大なことがいとも簡単に、陰湿なことがさらりと、瑣末(さまつ)なことが大切に書かれているので油断ができず、ものすごくはらはらする(ということはおもしろい文章だ)。読んでいて、しょっちゅう意表をつかれるし、ときにはあまりにもびっくりして、おなじところを何度か読み返してしまう。出来事にびっくりする前に、言葉にびっくりするのだ。そのあとでようやく、出来事が理解できる。だからなかなか進まないのだが、そこには奇妙な快感がある。

内容もまた、一筋縄ではいかない。登場人物たちの設定は見事なほどわかりやすい――地味で孤独な、けれど想像力が豊かでユーモアのセンスもあるオールドミスの主人公、口うるさい母親と、世間体ばかり気にする、けちだったり意地悪だったりする親戚(しんせき)たち、美しくて、周囲の皆からちやほやされ、当然婚約者もいるいとこ、身なりが貧しく、大声でわめくので村の厄介者扱いされている男(でも実はまっとうな人間で、主人公とは仲よくなる)、謎が多く、悪い噂(うわさ)の絶えない男(主人公が恋におちる)――のに、一人ずつの言動は複雑でシュールだ。モンゴメリは、複雑でシュールな、さらに言えばかなり陰惨なものを、いかにもあっさりと単純そうに提示して物語を進める。その大胆さと辛辣(しんらつ)さ。

たとえば、女は結婚してこそ幸福になるのだ、と散々言われ、独身だというだけでからかわれたり軽んじられたりしてきた主人公のヴァランシーは、これからはもう、そんなつまらない価値観など気にせずに生きようと決め、何をするかというと、結婚する(!)のだ。しかも、意中の相手に医師の診断書を見せて、愛してくれなくても構わないから、同情からでもいいから結婚してくれと頼む。その切実さとその矛盾、その突飛(とっぴ)さとシンプルさ、そしてそのリアリティ。結婚に同意した相手が、このときに言う言葉が私は好きだ。「ヴァランシー、もちろんぼくはきみを愛してはいない――愛するなどということを考えたこともなかったんだ。だが、いつもきみのことをかわいい人だとは思っていたよ」

だと、ではなくて、だとは、であるところが正しいし、だからこそ胸打たれる。ヴァランシーも負けてはいない。翌日(!)早速結婚したあとで、こう言うのだ。「お願い、もうあたしたちが結婚しているなんてことは忘れて、夫婦じゃないようにしゃべりましょうよ」

こんなに軽くて深い、暗くて楽天的な、絶望的でロマンティックなセリフもない。モンゴメリはおそろしいのだ。(谷口由美子・訳)
青い城 / モンゴメリ
青い城
  • 著者:モンゴメリ
  • 翻訳:谷口 由美子
  • 出版社:角川グループパブリッシング
  • 装丁:文庫(350ページ)
  • 発売日:2009-02-25
  • ISBN-10:4042179096
  • ISBN-13:978-4042179092
内容紹介:
貧しい家庭でさびしい日々を送る内気な独身女、ヴァランシーに、以前受診していた医者から手紙が届く。そこには彼女の心臓が危機的状況にあり、余命1年と書かれていた…。悔いのない人生を送ろ… もっと読む
貧しい家庭でさびしい日々を送る内気な独身女、ヴァランシーに、以前受診していた医者から手紙が届く。そこには彼女の心臓が危機的状況にあり、余命1年と書かれていた…。悔いのない人生を送ろうと決意した彼女がとった、とんでもない行動とは!?ピリッと辛口のユーモアで彩られた、周到な伏線とどんでん返し。すべての夢見る女性に贈る、心温まる究極のハッピー・エンディング・ストーリー。

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2009年4月5日

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