書評

『翻訳教室』(朝日新聞出版)

  • 2023/07/11
翻訳教室 / 柴田 元幸
翻訳教室
  • 著者:柴田 元幸
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:文庫(411ページ)
  • 発売日:2013-04-05
  • ISBN-10:4022646640
  • ISBN-13:978-4022646644
内容紹介:
東大文学部人気講義を載録。9つの英語作品をどう訳すか、著者は単語一つまで学生と討論し、講義を進める。翻訳という知的作業の追体験から出会う、英語と日本語の特性や違い、文体の意味、小説の魅力とは。ゲストに村上春樹氏、J・ルービン氏も登場。

学生と考える最良の訳文

二〇〇四年から〇五年にかけて、東大文学部で三、四年生を対象にして行われた「翻訳演習」の授業の筆記録である。

課題となる原文は、ヘミングウェイからレイモンド・カーヴァーを経てレベッカ・ブラウンに至る現代アメリカ小説。これに村上春樹とカルヴィーノの英訳を加えた全九編だ。

各原文の長さは教科書のほぼ一ページ程度で、長いものでも二ページ強。計十数ページの原文を日本語に翻訳することがこの授業の課題である。その作業に、教師と学生たちは本書三三〇ページの対話を費やしている。どれほど細密な共同作業か、それだけでもよく分かるだろう。

その結果、普通は翻訳者の頭のなかで起こる解釈と訳語の定着という些事(さじ)の連続が、教師と学生の会話をとおして、具体的な取捨選択のプロセスとして明瞭(めいりょう)に浮かびあがってくる。

そして、ここに現れる翻訳とは、大学受験の英文解釈のように定式化される作業ではなく、ああでもないこうでもないと絶えず頭脳と感性を酷使し、最良の訳文を求める一回一回命がけの日本語との格闘なのだ。

その厳しさが和らぎ、楽しい読み物に仕上がっているのは、教師の絶妙のユーモア感覚のおかげである。
翻訳教室 / 柴田 元幸
翻訳教室
  • 著者:柴田 元幸
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:文庫(411ページ)
  • 発売日:2013-04-05
  • ISBN-10:4022646640
  • ISBN-13:978-4022646644
内容紹介:
東大文学部人気講義を載録。9つの英語作品をどう訳すか、著者は単語一つまで学生と討論し、講義を進める。翻訳という知的作業の追体験から出会う、英語と日本語の特性や違い、文体の意味、小説の魅力とは。ゲストに村上春樹氏、J・ルービン氏も登場。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2006年4月2日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

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