書評

『近江商人と出世払い: 出世証文を読み解く』(吉川弘文館)

  • 2022/12/16
近江商人と出世払い: 出世証文を読み解く / 宇佐美 英機
近江商人と出世払い: 出世証文を読み解く
  • 著者:宇佐美 英機
  • 出版社:吉川弘文館
  • 装丁:単行本(275ページ)
  • 発売日:2021-11-20
  • ISBN-10:4642059385
  • ISBN-13:978-4642059381
内容紹介:
「成功したあかつきに借金を返済する」出世払い慣行は、どのように成立し定着したのか。残された証文から歴史や仕組みをひもとく。

冷酷に切り捨てぬ寛容さ

身内や友人から寸借するとき「出世払いで返すから」と冗談交じりで言い訳することがある。

本書は「出世払い」という言葉が、いつ頃から、どこで、どのようにして生まれたのか、膨大な史料の森に分け入って詳しく探究している。

「出世払い」の語源はどうやら「出世証文」の出現と表裏一体だという。出世証文の初見は江戸時代中期の享保年間(1716~36年)で、その後、近江商人の地元、近江国(現・滋賀県)やその商圏で多数発見されている。北は蝦夷地の商人のものもあるほどだ。著者は明治期のものも含めて、近江関連だけで175点を確認している。

出世証文は一般的な借用証文と混同されることがあるが、事書き(タイトル)や本文中に「出世」「出精(出情)」「仕合」「出身」などの文言が含まれるものを指す。

たとえば、最大規模の近江商人である中井源左衛門家には25点の出世証文が残っている。債務者は取引先や奉公人などで、家業が傾いたり、病気や災害で弁済のめどが立たなくなったり、奉公人の使い込みや失敗など理由はさまざまである。

そして証文には「たとえ年月がたっても、出世の時節に至れば、相違なく返済します」とあるのが特徴である。

返済できない可能性のほうが高いと思われるのに、なぜ寛大な出世証文が取り交わされるのか。

著者は、出世証文が誕生したのには、貨幣経済の発展とともに生み出される債務者を、債権者が冷酷に切り捨てず、勉励への寛容さを示すとともに、債務者に家産の再興へ再挑戦させる意欲をもたせようとしたことがあるという。そこには当事者間の信用や信頼を重視する近江商人の職業倫理や道徳観もあったとする。

出世払い=出世証文は、貧困に陥った人々を一時的に救済するためのセーフティーネットの役割を果たしたと、著者は強調する。格差社会の現代にも示唆的な処方ではあるまいか。

[書き手] 桐野 作人(きりの さくじん・歴史作家)
近江商人と出世払い: 出世証文を読み解く / 宇佐美 英機
近江商人と出世払い: 出世証文を読み解く
  • 著者:宇佐美 英機
  • 出版社:吉川弘文館
  • 装丁:単行本(275ページ)
  • 発売日:2021-11-20
  • ISBN-10:4642059385
  • ISBN-13:978-4642059381
内容紹介:
「成功したあかつきに借金を返済する」出世払い慣行は、どのように成立し定着したのか。残された証文から歴史や仕組みをひもとく。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

共同通信社

共同通信社 2022年1月

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
吉川弘文館の書評/解説/選評
ページトップへ