書評
『パラダイス・モーテル』(東京創元社)
小説に癒しや救いを求める読者は多い。しかし、泣かせたり、感動させたりっていうのは、実は存外簡単なのだ。巷に溢れかえってるベストセラー本を見ればわかるように、全体としてはレベルが低い小説にすら、泣きや感動なら入れられる。難しいのは、笑いと驚愕なんだけどなあ……。そこでおすすめしたいのが、カナダのポストモダニスト、エリック・マコーマックの『パラダイス・モーテル』。これは小説という言語芸術ならではの“語りの騙(かた)り”を駆使したサプライズ・エンディングものの傑作なのだ。
美しい妻を殺し、バラバラにしたその身体の一部を四人の我が子の体内に埋め込んだ外科医マッケンジー。そんな奇怪な話を、死の床に伏している祖父に聞いた十二歳の〈わたし〉は長じて作家となり、マッケンジー家の不幸な子供たちのその後を調べてみようと思い立つ――。というのが、この小説の大まかなプロットだ。
さて、〈わたし〉にとって幸運な偶然が重なって(これまた、物語にはよくありがちな、実人生ではあり得ないようなご都合主義的展開に対する、マコーマックの皮肉な視線が感じられる設定なのだが)、明らかになっていく四人の子供たちの消息は、それぞれ独立した短編として読んでも「!」級の面白さで、読者はそれら不思議な物語に満足しながら、とりあえずは安心してページをめくっていけるはず。ところが最後までくると、指の動きはハタと止まり、頭の中に「?」がとぐろを巻いて立ち上がるのだ。えっ、じゃあ、今までワクワクドキドキしながら読んできた、あの物語たちは一体なんだったわけ?
最終章にたどり着くや、最初のページへと強制送還させられるという、己の尾を嚙む蛇ウロボロスにも似た作品構造。でも、怒ってはいけません。ここはヒステリックな哄笑で応えるのが正解でありましょう。で、気持ちよく騙されたあなたは『隠し部屋を査察して』(東京創元社)もぜひ! 『パラダイス――』の元になった作品を含め、全十九編が収められている短編集なのだけれど、そのグロテスクでユニークな想像力といったら超ド級。「⁉」の快感に打ち震えて下さい。
【この書評が収録されている書籍】
美しい妻を殺し、バラバラにしたその身体の一部を四人の我が子の体内に埋め込んだ外科医マッケンジー。そんな奇怪な話を、死の床に伏している祖父に聞いた十二歳の〈わたし〉は長じて作家となり、マッケンジー家の不幸な子供たちのその後を調べてみようと思い立つ――。というのが、この小説の大まかなプロットだ。
さて、〈わたし〉にとって幸運な偶然が重なって(これまた、物語にはよくありがちな、実人生ではあり得ないようなご都合主義的展開に対する、マコーマックの皮肉な視線が感じられる設定なのだが)、明らかになっていく四人の子供たちの消息は、それぞれ独立した短編として読んでも「!」級の面白さで、読者はそれら不思議な物語に満足しながら、とりあえずは安心してページをめくっていけるはず。ところが最後までくると、指の動きはハタと止まり、頭の中に「?」がとぐろを巻いて立ち上がるのだ。えっ、じゃあ、今までワクワクドキドキしながら読んできた、あの物語たちは一体なんだったわけ?
最終章にたどり着くや、最初のページへと強制送還させられるという、己の尾を嚙む蛇ウロボロスにも似た作品構造。でも、怒ってはいけません。ここはヒステリックな哄笑で応えるのが正解でありましょう。で、気持ちよく騙されたあなたは『隠し部屋を査察して』(東京創元社)もぜひ! 『パラダイス――』の元になった作品を含め、全十九編が収められている短編集なのだけれど、そのグロテスクでユニークな想像力といったら超ド級。「⁉」の快感に打ち震えて下さい。
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