書評

『戦後政治の歴史と思想』(筑摩書房)

  • 2023/09/15
戦後政治の歴史と思想 / 松下 圭一
戦後政治の歴史と思想
  • 著者:松下 圭一
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:文庫(527ページ)
  • 発売日:1994-09-01
  • ISBN-10:4480081534
  • ISBN-13:978-4480081537
内容紹介:
「大衆国家の成立とその問題性」「大衆天皇制論」「〈市民〉的人間型の現代的可能性」「シビル・ミニマムの提起」「市民参加と法学的思考」「国家イメージの転換を」「都市型社会と防衛論争」「組織・制御としての政治」など、大衆社会ついで都市型社会の成熟する中にあって、戦後日本の課題を見定める12の自選論集。自己解題を付す。

柔軟な姿勢で生き生き語る

戦後政治の展開に対して、戦後政治学はいかに立ちむかったか。本書は、常に現実政治との緊張の中で自らの政治学を構築してきた一政治学者の自選論集である。ちょうど五五年体制の成立から崩壊までの四十年間をカバーする十二本の論文から成り立っている。

全体を一読しての印象では、一九五〇年代半ばから七〇年代までの前半六論文に圧倒される。時代の証言としての価値もさることながら、硬直した状況認識に陥らず実に柔軟な思考をめぐらし、生き生きした筆致で語る著者の姿勢に共感を覚えるからだ。

ジャーナリスティックなセンスをぎりぎりのところでアカデミックな議論にのせていく著者の魅力は、「大衆天皇制論」や「池田内閣とニュー・ライト」に充分認められる。むろんこれらをはさむ「大衆国家の成立とその問題性」などよりアカデミックな論文も、当時の多くの社会科学者に見られた難解な論文作法に比較すれば、メッセージははるかに明快と言えよう。

そして〈警職法〉と〈安保〉をめぐる国民運動を、「市民的抵抗」の日本型出発と捉(とら)え直した著者は、都市型社会における「市民」の自治体レベルへの政治参加に活路を見出し、「シビル・ミニマム」を提起していくことになる。だが著者自らも「解題」で未練を残しているように、一九六〇年前後の日本社会の変化を考察しようとした著者の営みは、そうすっきりとはしていなかった筈(はず)である。したがって時代の証言という観点から言うならば、「シビル・ミニマム」に到達するまでの著者の思考の苦闘の跡をたどれる論文が、もっと含まれていたらとの感を深くする。

著者は最終的に政治から国家を切り離し、国家を自治体・国際機構にならぶ相対的存在と規定する。すべてのアクターが分権化を唱和する現在、著者の示すこのモデルが有効性をもつか否か、これからの政治の行く末をじっくりとながめたい。
戦後政治の歴史と思想 / 松下 圭一
戦後政治の歴史と思想
  • 著者:松下 圭一
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:文庫(527ページ)
  • 発売日:1994-09-01
  • ISBN-10:4480081534
  • ISBN-13:978-4480081537
内容紹介:
「大衆国家の成立とその問題性」「大衆天皇制論」「〈市民〉的人間型の現代的可能性」「シビル・ミニマムの提起」「市民参加と法学的思考」「国家イメージの転換を」「都市型社会と防衛論争」「組織・制御としての政治」など、大衆社会ついで都市型社会の成熟する中にあって、戦後日本の課題を見定める12の自選論集。自己解題を付す。

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初出メディア

読売新聞

読売新聞 1994年10月31日

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