書評
『堀文子の言葉 ひとりで生きる (「生きる言葉」シリーズ)』(求龍堂)
見習いたい孤高の画家による箴言
3・11以降、「絆」とか「みんなで」とか、「つながり」といった言葉を頻繁に聞くようになった。「連帯を求めて孤立を恐れず」ならぬ、「孤立を求めて連帯を拒否する」をモットーにしてきた私には、なんだか居心地が悪い。そんななか『堀文子の言葉 ひとりで生きる』が売れているというではないか。テレビ番組で紹介されたのがきっかけだとか。
堀は孤高の日本画家だ。若いころから常に自由を求め、自分の絵を描き続けてきた。巻末にたった一見開きの略歴があるが、それを読んだだけでも圧倒される。世間の風潮に流されることなく、やりたいこと、やるべきだと信じることを貫いてきた。
2010年の2月末、つまり東日本大震災の1年あまり前に出たこの本は、「生きる言葉」シリーズの一冊。堀の語り下ろしと、これまでの著作やインタビューから集めた箴言集である。
素晴らしい言葉がたくさんある。
たとえば帯にも引かれている「群れない、慣れない、頼らない。/これが私のモットーです」。1918年(大正7年)生まれの堀は、この言葉の通りに生きてきた。この言葉の通りに、戦中も、戦後も、そして今も。
私も見習いたいけど、できるかな。とくに「慣れない」というのが難しそうだ。
その通り!と思ったのは、「美徳を吹聴してはなりません。美徳自慢は無粋の限りです。/ばか正直。ばか丁寧。くそ真面目。美徳にそんな言葉をつけて『過ぎる』ことをいましめていた昔の人の粋な感覚に圧倒されます」という言葉だ。
世の中の不幸のほとんどは、くそ真面目な人によってもたらされる。「これが正義だ」「これが人類の幸福のため」と、ばか正直に真実一路な人が、下らない戦争を起こしたりする。正直も丁寧も真面目も、ほどほどがいい。
老いに関する本、高齢者が書いた本が注目され、書店に並んでいる。だがこの本は、著者が高齢者だからすごいのではない。
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