書評

ロンドンの床下―カズコ・ホーキと借りくらしたち (求龍堂)

  • 2017/11/13
ロンドンの床下―カズコ・ホーキと借りくらしたち (アースブック) / カズコホーキ
ロンドンの床下―カズコ・ホーキと借りくらしたち (アースブック)
  • 著者:カズコホーキ
  • 出版社:求龍堂
  • 装丁:単行本(167ページ)
  • ISBN:4763094289

※書店によっては、在庫の無い場合や取り扱いの無い場合があります。あらかじめご了承ください。
※詳しい購入方法は、各ネット書店のサイトにてご確認ください。

カズコ・ホーキの文章の明晰さに感心す

持つべきものは「本読み」のプロで、わたしの場合も読みたい本がなくなってくると、信頼できる「本読み」の友人に「なんか読むもので面白いのない?」と聞いてみる。それでもって、今回は「本読み」から教わって感心したやつを一丁ね。

ものはカズコ・ホーキの『ロンドンの床下カズコ・ホーキと借りくらしたち』(求龍堂)。実は、これ資生堂の「花椿」に「KAZUKO記」のタイトルで連載中(事務局注:現在は連載終了)なのだけれど、わたしは指摘されるまで読んでなかったのである。カズコ・ホーキという名前でぴんと来なくても「あのフランク・チキンズの」というとおわかりの方も多いのではなかろうか。

十年以上も前に突如イギリスに出現した日本人によるミュージックパフォーマンスグループ。カラオケのようなラップのような歌謡曲のようなパンクのような曲をあやつる正体不明の日本人女性バンド、あのフランク・チキンズの主宰者がこの本の著者カズコ・ホーキさんである。

わたしがしばらく「花椿」の中でもこの連載を飛ばして読んでいたのは、フランク・チキンズに対して偏ったイメージを持っていたからだ。「本読み」の指摘を受け、連載を読みはじめて愕然、単行本化を首を長くして待っていたのである。

タイトルにもある「借りくらし」とは、カズコ・ホーキさんの言葉によれば「はじめてひとりで本屋にゆき、自分のおこづかいで買った本が、メアリー・ノートンの『床下の小人たち(借りくらし屋の小人たち)』だった。イギリスの床下に住む小人たちが、床上の人間のものを『借りる』と称して盗みながらくらしていく話だ。糸マキがイス、じょうろが煙突と、日常のものが小人たちの工夫で変身していく世界は、ロビンソン・クルーソーのミニチュア版で、その緻密な想像力は、今読み返しても圧倒される。……。私は、自分では気づかなかったけれど、日本の社会では適応できない『社会難民』だった。まわりにあるものが多すぎて、その使用方法を読むことで四苦八苦していたせいだろう。イギリスでの貧乏生活の中で、まわりのものをみなおして、突拍子もない使い方をすることを学んだ」そのことを指す。

東大卒業後、「社会難民」と化していたひとりの日本人女性が単身、イギリスへ渡りフランク・チキンズに変身する。そのままイギリスに住みついてざっと十七年、そんなカズコ・ホーキの周りにあやしい人間たちが集い来る……てな話といえばよろしいか。

日本人による「イギリスもの」は漱石先生以来、数え切れぬほどあるし、わたしもそれなりに読んではいるが、この本は文句なく最高の一つ。だいたい、文章がすっごくいい。カズコ・ホーキの文章を読んでいると、日本人が日本で書いている文章のほとんどはネチネチして気持ち悪く、それから説明が下手くそでユーモアがないように見えてくるぐらい(わたしも、反省)。

それから、なんといっても見ものというか読みものは、カズコ・ホーキの周りに集まる人間たちだけど、どうして男の書く「イギリスもの」ではこれほどあやしい人間が集まらぬのか。「アメリカもの」における宮本美智子さんも、そうとう程度「あやしい人間」を集めておられたが、その宮本さんも女性であった。海外へ出かける日本人男性は文献や資料の収集は出来るが周囲に人間を集める能力には欠けているのかもしれんなあ。

わたしが講談社エッセイ賞の審査員ならこの本に◎をつけます。はい。
ロンドンの床下―カズコ・ホーキと借りくらしたち (アースブック) / カズコホーキ
ロンドンの床下―カズコ・ホーキと借りくらしたち (アースブック)
  • 著者:カズコホーキ
  • 出版社:求龍堂
  • 装丁:単行本(167ページ)
  • ISBN:4763094289

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初出メディア

週刊朝日

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