書評
『おじさん図鑑』(小学館)
ついにおじさんが「見られる」立場になった
気がついたら私は、おじさんになっていた。おじさんというのは、徐々にではなく、突然なるものだと知った。虫になったザムザよりましかもしれないが。いまや私はおじさんからおじいさんに向かいつつある。かつておじさんは見る人だった。若い男たちを見て「最近の若いもんはなっとらん」といったり、ニュースを伝えるテレビを見ながら毒突いたりしていた。おじさんはしょっちゅう文句をいっているが、文句をいわれることには慣れていない。だから電車内で叱った若者に反撃されると、びっくりした表情をする。そしてキレる。
おじさんがもっと慣れていないのは見られることだ。見られる可能性なんてまるで考えていないから、おじさんは無防備である。
時代は変わった。なかむらるみ『おじさん図鑑』が出たのである。しかも売れている。著者は1980年生まれのイラストレーター。電車内や路上をはじめさまざまなところで観察したおじさんがコレクションされている。
図鑑らしく分類がある。「普通のスーツのおじさん」「偉いおじさん」「暇そうなおじさん」など。
「缶ビール・缶チューハイおじさん」というページには、品川駅連絡通路で立ち飲みしているおじさんや、上野・不忍池で花壇の隅かなにかに腰掛けて発泡酒を飲むおじさんが載っている。ささっと描いた絵のように見えるが、デッサンにくるいはない。
著者が幼稚園児だったころ『東京女子高制服図鑑』(森伸之著)が話題になった。女子高の制服がオシャレになり、制服を変えるだけで偏差値が上がったという高校もあった。あのころから女子高生は見られる存在になっていった。
「あほ面のおじさん」とか「怪しいヘアスタイルのおじさん」という項目にムッとして「ほっといてくれ」と思ったが、しかし、考えてみると我々おじさんは、これまで女子高生はじめ世の女性たちにさんざん不躾な視線を向けていたのだった。反省。
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