書評
『錆びつかないで美しく生きるために―幸せなミッドライフのすごしかた』(主婦の友社)
目的創出を迫られる中年女性の危機
著者はキャリアウーマンとして働き、家庭では母として子供を育て、充実した日々を送ってきた、はずだった。ところが五十一歳のとき、このまま自分の欲求をおさえつけて生きていくのはいや、これからは自分のしたいように生きたい、と激しく思い、十代の少年のようにオートバイを乗りまわし、あげく鎖骨を折る大怪我を負う。そのときの自分の混乱を中年の危機だと自覚した彼女は、多くの女性に取材をおこない、体験談を集め、共通点のあることを発見し、一冊の本にまとめた。このようにして書きはじめられたこの本だが、第一部では、自分を見失ってしまう女の季節の現状を説明し、第二部では女性によって中年の危機にもタイプや危機のモードの違いがあるという具体的考察に到り、第三部ではその解決方法を提示するという、とても具体的で役に立つ一冊となっている。
とりわけ第二部の「タイプ」と「危機モード」は面白かった。冒険家型、恋人型、リーダー型、芸術家型、園芸家型、探求者型と中年女性をタイプ分けし、それぞれ具体的人物の体験談が伝えられる。女性雑誌などでもこのような体裁で人間分析が行われることが多い。しかし女性の実体験が語られると、より説得力が増す。
いずれもアメリカの女性で、個としての自立意識は日本人より進んでいるだけに、サンプルとしては明快で判りやすい。日本女性はもう少し曖昧(あいまい)なのだろうが、やがてこのような女性も増えてくるのではないだろうか。
――行儀のいい女性たちが歴史をつくることはめったにない――(歴史学者ローレル・サッチャー・ウルリク)
の言葉も引用されているとおり、かつては中年女性の危機など、単に行儀が悪いと思われていただけだったのに、危機を主張するだけの長寿が与えられたおかげで、新しい女性たちの歴史もつくられていくわけだ。つまりそれは、成熟した文明社会だけに許された――出産と育児を終えたら生命も用済みとなる社会では考えられない――贅沢(ぜいたく)な迷いと悪戦苦闘なのだ。
そして、その混乱から生み出される新たな認識は、成熟した社会を老いさせることも活性化させることも可能だから、男たちも決して無視出来ないのである。
このような事態が到来してあらためて思うのは、人間は「目的なしに生きることが出来ない」高度な生きもので、常に「向上心」という持病をもち、「退屈」という鈍痛を抱えているということだ。
貧しければ豊かになりたいという目的がはっきり見える。病いになれば病いを克服することが病人の目的となる。子供が病気になったときの母親は、必死な視線を我が子に向け、世界で何が起きようがとりあえずの目的は我が子の治癒なのだ。このとき母親の顔は大抵、悲愴(ひそう)なまでに生きいきとしている。
目的がはっきりしているとき、それが不幸な事態の一掃であっても、人間の生命は勢いづく。
ところが、衣食住が満たされても目的が無くなると、自分の存在意義さえも失ってしまう。
夫や子供や社会との関係で変化を受けやすい女性に、この傾向は顕著に見られるにしても、男性も実は同じだろう。
人生の目的を与えられていた時代から、自分で創り出さなくてはならない時代への移行が、実は中年期なのだと、この本は語っている。
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