書評

『家を失う人々 最貧困地区で生活した社会学者、1年余の記録』(海と月社)

  • 2024/07/20
家を失う人々 最貧困地区で生活した社会学者、1年余の記録 / マシュー・デスモンド
家を失う人々 最貧困地区で生活した社会学者、1年余の記録
  • 著者:マシュー・デスモンド
  • 翻訳:栗木さつき
  • 出版社:海と月社
  • 装丁:ペーパーバック(566ページ)
  • 発売日:2023-11-30
  • ISBN-10:4903212823
  • ISBN-13:978-4903212821
内容紹介:
貧困問題の解決に鋭く切り込む世界的名著。ピューリッツァー賞など13の賞を受賞!全米70万部 。欧州、アジア各国でも刊行!
貧困問題を社会構造ではなく自己責任だと断じる人は、今、貧困状態に陥っているわけではない人が多い。そんな人の目の前に整っている暮らしは、実際のところ、いつ崩れてしまうかわからない。自分の身体であろうが、周囲の環境であろうが、次の瞬間、崩れてしまうものかもしれない。自分はそうではないから、という冷たさは、一体どこから生まれてしまうのか。

『家を失う人々 最貧困地区で生活した社会学者、1年余の記録』(マシュー・デスモンド著、栗木さつき訳・海と月社・2860円)に、「家は、そこに暮らしている人の個性の源泉でもある」とある。その源泉を奪う人がいるのだ。

アメリカのウィスコンシン州ミルウォーキーの最貧困エリアで共に暮らしながら、その生活さえ揺さぶられている人たちの声を聞く。法外な家賃をふっかけられ、払えなければ追い出される。こういった地域で暮らしている人たちを見て、「貧困ラインのはるか上で高みの見物を決めこんでいる人たち」は「怠惰」と思うかもしれないが、「じつは生きるためのペース配分の技術」なのだと著者は強調する。限られたエネルギーで生き抜くため、枯渇しないようにするため、静かにとどまるしかない。時に、雪を食べてしのぐ人さえいたという。

アメリカでは個人の信用情報が社会保障番号と紐づけられ、滞納などが記録される。その信用情報について、金を払えば回復させると提案するビジネスが出てくる。こうなったのはあなたのせいなのだから、あなたが頑張らなければならないという動きが加速する時、そこには常に金の臭いが立ち込める。

逃げ道を限定し、搾取する仕組みを強化する。貧困問題について「不足しているもの」は何かと注目してきたが、「根強い貧困の一因が搾取」であり、「スラムはおいしい」と考える連中を真っ先に問うべきと著者。共に暮らしながら得た声を、何も知らなかった自身の罪悪感にぶつけながら記す。常に奪われる側の横に立ち、奪う側を問う視線は、読者にも注がれる。
家を失う人々 最貧困地区で生活した社会学者、1年余の記録 / マシュー・デスモンド
家を失う人々 最貧困地区で生活した社会学者、1年余の記録
  • 著者:マシュー・デスモンド
  • 翻訳:栗木さつき
  • 出版社:海と月社
  • 装丁:ペーパーバック(566ページ)
  • 発売日:2023-11-30
  • ISBN-10:4903212823
  • ISBN-13:978-4903212821
内容紹介:
貧困問題の解決に鋭く切り込む世界的名著。ピューリッツァー賞など13の賞を受賞!全米70万部 。欧州、アジア各国でも刊行!

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2024年1月20日

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