書評
『ニューヨークの女性の「強く美しく」生きる方法』(大和書房)
努力しない「セルフヘルプ」
著者はニューヨークでも活躍するアパレル女性起業家。ニューヨークでの生活を綴(つづ)ったブログの著者でもある。ビジネスの成功者による「ニューヨーク」流仕事術を期待して読んでみたらどうも様子が違う。本書では、以下のことが提唱される。「自分らしい」生き方をする女性は年齢不詳であれ、物事を「楽観的」にとらえろ、「夢や計画」を「スクラップブック」に書き込め、「花」を買ってテーブルに飾れ、笑顔を鏡で確認しろなど。つまりは、ネガティブな思考をやめ、前向きでいろということ。
なるほど、自己啓発書である。だが、日本の多くのそれとは趣が異なる。一見、翻訳本のようだが、それも違う。表紙の女性はモデル。去年のベストセラー「ビリギャル」のパターンだ。
アメリカの書店には「セルフヘルプ」の棚がある。日本では自己啓発本だが、日米のそれは少し違う。日本ではビジネス書の1分野だが、米のそれは宗教、スピリチュアルに属すものだ。
日本版自己啓発書は努力を説く。「がんばれがんばれ」と尻を叩(たた)く。セルフヘルプが輸入される際に、努力は大事という日本的な考え方にアレンジされてしまったのだろう。ほほ笑ましい。だが米式セルフヘルプは、努力は必要ないと説く。成功や幸せを手に入れるためには、それを願うだけでいい。逆に疑えば去っていくと。そのお手軽さが広く受けているのだろう。
この手の本は、アメリカでは90年代半ば以降の格差の拡大、中流層の没落とともに流行したもの。プロテスタント教会が本来は認めていなかった「ニューソート」(セルフヘルプの原型となった教義)を容認し、信者拡大に利用したのだ。これにより、新規信者を獲得していった。
米式セルフヘルプの流行は、日本でも格差が広がっていることの表れだろうか。
朝日新聞 2015年2月8日
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