書評

『ためない暮らし』(大和書房)

  • 2017/09/20
ためない暮らし / 有元 葉子
ためない暮らし
  • 著者:有元 葉子
  • 出版社:大和書房
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(184ページ)
  • 発売日:2012-02-24
  • ISBN-10:4479782389
  • ISBN-13:978-4479782384
内容紹介:
冷蔵庫、どうやったらすっきりしますか?無理せずシンプルに、人生をたのしんで。自由に生きる秘訣、ここにあります。

モノを「使い切る」コツ

身のまわりのモノはできるだけ少なく、簡素に静かに暮らしていたい。

茶室が美しいのは、そこに余計なものが何もないからだ。炉にかけられた釜が静かに音をたてる(透木釜(すきぎがま)の季節ですね)。水指(みずさし)や棗(なつめ)、茶碗を運び入れて茶を点て、客が飲み終わると運び出す。茶室はまた何もない空間に戻る。

しかし現実はきびしい。だまっていてもモノが増えていく。あると便利だろうと思って買ったモノ。他人からのいただきモノ。いつか使うかもしれないと思って捨てられないモノ。モノがたくさんあっても、豊かになった気はしない。片づけ術、整理法を説いた本が売れるのは、誰もがこうした悩みを抱えているからだろう。不況なのにモノがいっぱい。胸がいっぱい、おなかもいっぱい。

有元葉子『ためない暮らし』は、不要なものをため込まないためのヒント集である。というよりも、思いつくままエッセイを書いていたら、結果的に「ためない」話が多くなったらしい。

料理研究家らしく、食材や調理器具、キッチンの話が参考になる。食材をいかにためず、むだにしないか。夏みかんはジャムに、水分が抜けかかったりんごはタルトタタンに。ぼくがグッときたのは、空煎りした大豆を味噌でからめた豆味噌。そうだ、大豆ならわが家の冷蔵庫にもたくさんあったはずだ。ぼくもつくってみようかな、と思わせる魅力がこの本にはある。

もっとも、有元葉子は所有することを否定するわけではない。たまった食材は廃棄するのではなく、腐敗する前に加工して、より長く食べやすくする。ストックの形態を変えてムダをなくすのだ。

「気持ちよく別れたい──おわりに」を読んでほっとした。「自分の持ち物を再点検してみると、買ったけれど今ひとつ満足感のない、つまり、使い切って命を全うしていない物も実はちらほらと目につきます」とある。ああ、有元葉子でもそうなのだ。「ためない暮らし」は理想であり、見果てぬ夢だ。
ためない暮らし / 有元 葉子
ためない暮らし
  • 著者:有元 葉子
  • 出版社:大和書房
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(184ページ)
  • 発売日:2012-02-24
  • ISBN-10:4479782389
  • ISBN-13:978-4479782384
内容紹介:
冷蔵庫、どうやったらすっきりしますか?無理せずシンプルに、人生をたのしんで。自由に生きる秘訣、ここにあります。

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初出メディア

週刊朝日

週刊朝日 2012年4月20日

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