書評
『むむむの日々』(大和書房)
いつのまにかハラダさんは、すっかり我が家の人気者になってしまった。私の定期購読している雑誌のいくつかに、ハラダさんのエッセイが連載されていて、それが滅法おもしろい。
サラリーマンの父も、専業主婦の母も、大学生の弟も、しっかり愛読している。
「ハラダさんてさあ、生まれて初めて喫茶店に行ったとき、人のマネして“ブレンド”って頼んだんだって。で、出てきたものがコーヒーにそっくりで、びっくりしちゃったって」
「あら、初めて、空港に行ったときの話もおもしろかったわよ。検問所で『ご出発ですね、どちらまで?』って聞かれて『ななな成田空港です』って言っちゃったんですって」
――というような具合に、近所のお兄さんの噂話をするノリで、私たちはハラダさんを話題にする。
本書は、去年一年間にいろんな雑誌に書かれたエッセイを集めたもので、「困惑の王様」であるハラダさんの魅力が、ぎっしり詰まっている。
ホワイトデーのためにマシュマロを買いに行って「マニュマモくままい」と口ごもってしまうハラダさん。写真を撮られるのが苦手で“ブンガク者風ふてくされポーズどうせ俺なんか添え”という表情をしてしまうハラダさん。なくて七癖なら、ある人はいったい何癖くらいになるのだろうか、と考え込むハラダさん。
この『むむむの日々』は、目下弟に貸し出し中である。で、かわりに弟が私に貸してくれたのが、同じハラダさんのエッセイ集『東京トホホ本舗』(学生援護会)と『日常ええかい話』(扶桑社)だった。こちらも、すこぶるつきの楽しい本だ。
むむむ、と困惑し、トホホ、と頭を抱える。そこでハラダさんのエライところは、ちっともいじけないことだ。失敗談を楽しく話すというのは案外むずかしいもので、妙な自己卑下が加わったりすると、聞いているほうも単純に笑えなくなってしまう。
誰にでも一つや二つは、思い出すたびに顔が赤くなるようなエピソードというものがあるだろう。ハラダさんのエッセイは、そんな「むむむ」や「トホホ」を、元気の素に変えてくれる魔法のようだ。
ただし、電車の中で読むことは、おすすめしない。笑いをこらえようとして、私は何度も涙目になってしまった。たまらずに吹きだして、周囲の人から不審げな目で見られたこともある。トホホ。
【この書評が収録されている書籍】
サラリーマンの父も、専業主婦の母も、大学生の弟も、しっかり愛読している。
「ハラダさんてさあ、生まれて初めて喫茶店に行ったとき、人のマネして“ブレンド”って頼んだんだって。で、出てきたものがコーヒーにそっくりで、びっくりしちゃったって」
「あら、初めて、空港に行ったときの話もおもしろかったわよ。検問所で『ご出発ですね、どちらまで?』って聞かれて『ななな成田空港です』って言っちゃったんですって」
――というような具合に、近所のお兄さんの噂話をするノリで、私たちはハラダさんを話題にする。
本書は、去年一年間にいろんな雑誌に書かれたエッセイを集めたもので、「困惑の王様」であるハラダさんの魅力が、ぎっしり詰まっている。
ホワイトデーのためにマシュマロを買いに行って「マニュマモくままい」と口ごもってしまうハラダさん。写真を撮られるのが苦手で“ブンガク者風ふてくされポーズどうせ俺なんか添え”という表情をしてしまうハラダさん。なくて七癖なら、ある人はいったい何癖くらいになるのだろうか、と考え込むハラダさん。
この『むむむの日々』は、目下弟に貸し出し中である。で、かわりに弟が私に貸してくれたのが、同じハラダさんのエッセイ集『東京トホホ本舗』(学生援護会)と『日常ええかい話』(扶桑社)だった。こちらも、すこぶるつきの楽しい本だ。
むむむ、と困惑し、トホホ、と頭を抱える。そこでハラダさんのエライところは、ちっともいじけないことだ。失敗談を楽しく話すというのは案外むずかしいもので、妙な自己卑下が加わったりすると、聞いているほうも単純に笑えなくなってしまう。
誰にでも一つや二つは、思い出すたびに顔が赤くなるようなエピソードというものがあるだろう。ハラダさんのエッセイは、そんな「むむむ」や「トホホ」を、元気の素に変えてくれる魔法のようだ。
ただし、電車の中で読むことは、おすすめしない。笑いをこらえようとして、私は何度も涙目になってしまった。たまらずに吹きだして、周囲の人から不審げな目で見られたこともある。トホホ。
【この書評が収録されている書籍】
朝日新聞
朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。
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