♪おれは怪物くんだ 怪物ランドの王子だぞ♪ 『世界で最も危険な男 「トランプ家の暗部」を姪(めい)が告発』(メアリー・トランプ著、草野香ほか訳・小学館・2420円)を読んでいる間じゅう、あのアニメのテーマソングが頭の中で流れていた(筒美京平先生、あなたは偉大な音楽家でした。ご冥福を祈ります)。
もっとも、ドナルド・トランプはかわいげのある怪物くんとは正反対。悪の中の悪、まさに「世界で最も危険な男」である。
トランプの姪による告発本ということで、さぞかしスキャンダラスで下品なものかと思いきや、意外と内容は真っ当。他のトランプ本とはひと味もふた味も違う。
たしかに著者だから知り得たトランプ一族の暗部についても詳細に書かれている。たとえば彼らのお金に対する執着のすさまじさ。クリスマスプレゼントのセコさは、「金持ちほどケチ」という俗説を裏付けていて笑える。
だが、最も重要なのは、怪物はいかにして怪物になったのかという部分だ。著者はドナルド・トランプの兄の娘であると同時に、臨床心理学の学位を持った専門家でもある。心理学の用語はほとんど出てこないけれども、「あんなふうに育てたら、こんなふうな怪物になった」ということがリアルに描かれている。
ドナルド・トランプは自分で怪物になったわけではなかった。ドナルドの父、著者にとっては祖父が、ドナルド以上に怪物。この父トランプは、息子たちを競わせ、支配した。娘たちには何の期待もしなかったし、機会も与えなかった。男尊女卑のかたまりみたいな男だった。
威圧的な父のもとでドナルドが覚えたのは、他人を蹴落とすことで自分を優位にすることだ。いじめが大好き。自分のあやまちは絶対に認めず、必ず誰かのせいにした。ドナルドの兄で著者の父が、その最も身近な犠牲者となった(まあ、娘が書くことなので、多少の身びいきはあるかもしれないけど)。
この本、子育て本として読んでもいいかも。