参院選は経済論議どころではなかったが、本来は「積極財政の是非」につき丁々発止すべきところ。本書はMMT(現代貨幣理論)の立場から擁護する。昨年『文藝春秋』11月号に掲載された矢野康治「財務次官、モノ申す『このままでは国家財政は破綻する』」への反論を軸に、矢野氏に同調する経済学者を実名つきでなで切りにしている。
ソクラテス、シャーロック・ホームズ、プラグマティズム等の論法で「アタマをキレッキレに」するという謳い文句は怪しい。だがユーロに縛られ独自の金融政策を講じられない独仏と違い、基軸通貨国アメリカやユーロから独立したイギリス同様、日本は自国通貨を自由に発券できる。余剰人材を政府が雇用し、日銀が国債を購入しても財政が破綻しないのは事実だ。
そこで残る金利の高騰と、制御不能のインフレが生じる可能性が検討される。結局のところ、経済学者は「供給は常に需要を生む」説(セーの法則)を前提とし、財務官僚は均衡予算が、景気対策よりも守りたいご本尊なのだと分かる。そもそもコロナ対策の給付金支給で、MMTは成功裏に実行されたと思われるのだが。