書評

『冷血』(毎日新聞社)

  • 2017/12/21
冷血 / 高村 薫
冷血
  • 著者:高村 薫
  • 出版社:毎日新聞社
  • 装丁:単行本(320ページ)
  • 発売日:2012-11-29
  • ISBN:4620107891
内容紹介:
クリスマス前夜の「一家四人殺し」-数多の痕跡を残しながら、逃走する犯人たち。翻弄される警察組織の中で、合田がふたたび動き出す。

2012年のなかで最高の書物

街にクリスマスソングが流れるころ、歯科医師の一家4人が皆殺しにされる。犯人はケータイサイトで知り合った若者2人。目的はカネでもなく恨みでもなく、ただなんとなく。残酷ではあるけれども凡庸な事件を、徹底的に緻密に描いたのが高村薫『冷血』である。

上下2巻、3章からなる。「第1章 事件」は、被害者と犯人、それぞれの視点で、犯行に至るまでのプロセスが描かれる。「第2章 警察」は、事件発生から犯人逮捕までを警察側の視点で描く。刑事・合田雄一郎が登場するのは、この第2章、149ページから。そして下巻は「第3章 個々の生、または死」に丸々充てられる。

たいていの犯罪小説は犯人が逮捕されるところで終わる。ヤクザの家系に生まれた男と教育ママに育てられてドロップアウトした男が出会い、行きずり的な犯罪に手を染める。男たちの意識の流れは克明に描かれていて、どこにも謎はない(はずだ)。新聞で報じられても「ひどい事件だ」「こいつら死刑だね」で終わる話。

だが、高村薫の真骨頂はここからである。なぜいい年をした男が2人、あとさきを考えない場当たり的な犯罪をしたのか。なぜ恨みもない歯科医師夫妻を殺しただけでなく、熟睡している幼い子ども2人を撲殺したのか。合田雄一郎の目と耳と頭脳を借りて、読者は徹底的な腑分けに立ち会う。まるでミリ単位でCTスキャンし、人体を輪切りして見るように。

虞犯(ぐはん)少年がそのまま大人になり愚かな罪を犯す典型例のように見えながら、虞犯少年にも1人ひとりの人生がある。彼らは何を考え、何を感じたのか。殺された少女は数学オリンピックを目指す秀才だったが、少女の生と犯人の生の重みにどのような違いがあるのか。第3章の表題がいうように、生と死について深く考えずにいられない。本書は犯罪小説のかたちをとった哲学書だ。日本語で書かれ2012年に刊行された書物のなかで最高の作品である。
冷血 / 高村 薫
冷血
  • 著者:高村 薫
  • 出版社:毎日新聞社
  • 装丁:単行本(320ページ)
  • 発売日:2012-11-29
  • ISBN:4620107891
内容紹介:
クリスマス前夜の「一家四人殺し」-数多の痕跡を残しながら、逃走する犯人たち。翻弄される警察組織の中で、合田がふたたび動き出す。

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初出メディア

週刊朝日

週刊朝日 2013年1月18日

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