「あはれ」が「あっぱれ」になったのは本当か。テーマはこれだけだが、読めば痛快きわまる一冊だ。
探索はまず音韻から。ハ行は昔pだったのが奈良時代にΦ(フ)になった。それがやがてwに。だから「私は」はワタシワと読む。現行のハ行の発音は一貫性がないのだ。
促音の法則。強めるのに、息をとめたあと破裂音にする。やはり↓やっぱりの類だ。ファがパになるか。定説はアファレがまずアッファレになって、アッパレになったとする。そんなはずはない、と著者は反論。丹念で合理的な推論が読ませる。
ニホン/ニッポンはどうか。これは逆で、まず日本と国号を決めたら長安でジッポンと読まれた。それが日本でニッポンになり、穏やかな言い方のニホンもできた。だから元気のよいときはニッポン、チャチャチャで、ふだんはニホン国憲法だ。
著者は九十歳で本書に着手。ビジネスマンを退いたあと国字や訓(よ)み方を研究し著書も多い。促音(っ)は昔表記されなかった。かな表記と発音の関係もやっかいだ。感動一般を表す「あはれ」が称賛を表す「あっぱれ」に進化した理由を、集合心理の奥底に探る探偵小説さながらだ。