書評

『平塚らいてう-孫が語る素顔』(平凡社)

  • 2024/05/15
平塚らいてう-孫が語る素顔 / 奥村 直史
平塚らいてう-孫が語る素顔
  • 著者:奥村 直史
  • 出版社:平凡社
  • 装丁:新書(270ページ)
  • 発売日:2011-08-11
  • ISBN-10:4582856020
  • ISBN-13:978-4582856026
内容紹介:
「女性解放」「反戦平和」の闘士として語り継がれる偉人・平塚らいてう。その雄々しい肖像からは想像し難い、家族にのみ見せた意外な素顔を、孫が率直に語る。
今年は『青鞜』創刊100年。明治44年9月、本郷区駒込千駄木町に日本で初めての「女性による女性のための雑誌」が創刊された。主宰者は平塚らいてう。会計検査院次長の娘で、お茶の水高女から日本女子大を出た才媛ながら、禅に興味を持ち、なぜ私は生きているのかを問い、男性と心中未遂事件を起こしてスキャンダルとなっていた。

その当時では立ち直れないようなマイナスをはね返し、平塚らいてうは仲間とともに雑誌を作り、「元始、女性は太陽であった」と宣言をし、今に至るまで女性解放の先駆者としてたたえられている。

本書のユニークさは、その神話化された偉人伝を孫の眼から突き崩して行くところだ。

らいてうは男女二人の子を産んだが、著者は長男敦史の長男にあたる。女性史の舞台に登場するらいてうと、わが知るおばあちゃんとの違和感がすごい。人の先頭に立って、胸を張って、声高に演説するような闘士ではなかった。小柄、ひよわ、声が出ない、はにかみ屋で、ひとが怖い。「ほとんどの時間は自分の部屋にこもって何をして入るのか私にはよくわからない人であった」

若いころは『若い燕』と呼ばれた年下の夫、祖父・奥村博史は画家だが、著者が覚えているのは炬燵に入って彫金をしている姿である。絵は売れないため、博史は指輪の製作をした。祖父母は理解し合いながらも、それぞれの暮らしの時間とスタイルを崩さず不干渉に見えた。

その割をくったのがらいてうの嫁に当たる綾子(著者の母)。「嫁の綾子に家のことはすっかり任せきり」と平然と書いたらいてう。「女性を家事から解放する」思想と現実は一致しなかったのだ。家父長制や女性の性役割分担を若いときは激しく攻撃したのに、自分は長男の嫁に家事を頼っている。「時にげっそり疲れた母の表情が、子供心の私にも見えたのは事実である」

祖父母に収入は少なく、三世代大家族の生活は大学教師の父1人の肩にかかり、苦しかった。

『青鞜』創刊前後に焦点が当たるらいてうのその後を見据えた貴重な本といえよう。心理療法士である著者がらいてうの内面とその変化を読み解くくだりも刺激的だ。

ついでに言うと平塚らいてうの本名は明(はる)、同姓主義を批判してかなり長いこと、夫の籍に入らなかった。奥村明となったのは、私生児では息子が兵隊になったときに不利だからだと言う。また平塚雷鳥の表記は誤り、また「青鞜」は「青踏」と誤植されることも多い。
平塚らいてう-孫が語る素顔 / 奥村 直史
平塚らいてう-孫が語る素顔
  • 著者:奥村 直史
  • 出版社:平凡社
  • 装丁:新書(270ページ)
  • 発売日:2011-08-11
  • ISBN-10:4582856020
  • ISBN-13:978-4582856026
内容紹介:
「女性解放」「反戦平和」の闘士として語り継がれる偉人・平塚らいてう。その雄々しい肖像からは想像し難い、家族にのみ見せた意外な素顔を、孫が率直に語る。

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初出媒体など不明

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