文学の源流にうわさがある。ひとは「つてこと(流言)」に振りまわされる。
一九七〇年代に大流行した「ノストラダムスの大予言」や「口裂け女」の都市伝説。コンピューターが誤作動するという二〇〇〇年問題、災害時に現れる差別的なデマ。米国には影の政府が存在するという陰謀論が根強くある。飛語は今、ネットで文字通り飛び散っていく。
本作は、公私の「つてこと」の数々をたどりつつ、人間の生の拠りどころとは何かを考えさせる。
主人公の一人飛馬(ひうま)は、祖父は大地震を予知して村を救った英雄だと父に聞かされて育つ。母が入院すると、そこでも彼はある傍聞(かたえぎ)きによって人生を左右される。
不三子(ふみこ)は妊娠中に教会経由である料理法に出会って傾倒し、ワクチンも拒否するが、そのことで家族と距離ができてしまう。
カルト教団に入る者、フェイクニュースを信じる者。しかし真偽の境は明確ではない。飛馬の父の教えが史実と反していても、それが彼のささやかな信念であるなら、誰に否定できるだろう。一つの真実、一つの正義などあり得ないのだ。