書評

『なめらかな社会とその敵』(勁草書房)

  • 2020/01/02
なめらかな社会とその敵 / 鈴木 健
なめらかな社会とその敵
  • 著者:鈴木 健
  • 出版社:勁草書房
  • 装丁:単行本(276ページ)
  • 発売日:2013-01-28
  • ISBN-10:4326602473
  • ISBN-13:978-4326602476
内容紹介:
「なめらかな社会」が近代をメジャーバージョンアップする。近代民主主義が前提としている個人(individual)という仮構が解き放たれ、いまや分人(dividual)の時代がはじまろうとしている。人間の矛盾を許容して、分人によって構成される新しい民主主義、分人民主主義(Divicracy=dividual democracy)を提唱する。

こんな難解な本が売れているなんて!

世の中は白か黒かとはっきり分けられるほど単純ではない。悪人は51%悪くて、49%善い。善人は49%悪くて、51%善い。悪人と善人の違いは、わずか2%程度じゃないのか、というのが55年間生きてきたぼくの実感だ。ほとんどのことは白と黒の間、グレーの部分にある。

「この複雑な世界を、複雑なまま生きることはできないのだろうか」というのが鈴木健『なめらかな社会とその敵』の冒頭の言葉。なめらかな社会とは、ものごとを単純な二元論に還元してしまうのではなく、複雑なものを複雑なまま残す社会である。

それを夢想に終わらせないために、さまざまな仕組みを著者は提案している。ものの値段の決めかた、選挙のしかた、法律のありかた、そして国家の枠組み。

すごいのは、なめらかな貨幣システム「伝播投資貨幣PICSY」や新しい投票システム「分人民主主義Divicracy」について、数学的な基礎づけを行ったところだ。ぼくにはほとんどチンプンカンプン。記号Σがあちこちに出てきて、あわてて『もう一度高校数学』(高橋一雄著、日本実業出版社)の数列の章を読み直した。こんな難解な本が売れているなんて!

ぼくなりの理解では、PICSYとは購買を投資ととらえ、未来についても見すえてお金を払うこと。分人民主主義は、一人一票ではなく、この一票を何分割にもして投票すること。

そんなことできるのかと思うのだが、コンピュータとインターネットを使えば不可能ではないらしい(東浩紀『一般意志2・0』を連想した)。

先の総選挙の結果にもやもやした思いを抱き、次の参院選に不安を持っている人は少なくないと思う。民主党はダメだったけど、自民党の政策を積極的に支持したわけじゃないのに……と。この居心地の悪さ、「なめらかな社会」になれば、少しは改善されるのかな。
なめらかな社会とその敵 / 鈴木 健
なめらかな社会とその敵
  • 著者:鈴木 健
  • 出版社:勁草書房
  • 装丁:単行本(276ページ)
  • 発売日:2013-01-28
  • ISBN-10:4326602473
  • ISBN-13:978-4326602476
内容紹介:
「なめらかな社会」が近代をメジャーバージョンアップする。近代民主主義が前提としている個人(individual)という仮構が解き放たれ、いまや分人(dividual)の時代がはじまろうとしている。人間の矛盾を許容して、分人によって構成される新しい民主主義、分人民主主義(Divicracy=dividual democracy)を提唱する。

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初出メディア

週刊朝日

週刊朝日 2013年5月31日

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