書評
『怪物に出会った日 井上尚弥と闘うということ』(講談社)
26戦全勝23KO。井上尚弥は恐ろしいボクサーだ。
パンチを躱してから打つのではなく躱しながら打つノニト・ドネアの神業を、楽々と披露する。記者は誰もが「そんな技が凄い」と書きたいところだが、それだと正確な表現にならない。千変万化、戦略やその場の事情で構えすら変えてしまうからだ。どう恐ろしいのか「まだ分からない」のである。
鳥山明の漫画『DRAGON BALL』なら「スカウター」の数字で強さを表示するところ、活字では手段が限られる。そこで著者は一計を案じた。対戦相手と一緒にビデオを見、井上像を言葉にしてもらおうというのだ。
インタビューしたのは敗れた選手、踏み込んではいけない領域がある。著者の細やかな気配りで、10人からヒリヒリする対応と言葉を引き出した。佐野友樹は「みんな、闘うなら今しかない。来年、再来年はもっと化け物になる」と口走り、田口良一には「『井上戦でダウンしていない男』はいい称号だな」と述懐させた。ドネアはまだ井上戦を語りたくないと口をつぐみ、同じくレジェンドのナルバエスは饒舌だ。
戦略が光る傑作である。
パンチを躱してから打つのではなく躱しながら打つノニト・ドネアの神業を、楽々と披露する。記者は誰もが「そんな技が凄い」と書きたいところだが、それだと正確な表現にならない。千変万化、戦略やその場の事情で構えすら変えてしまうからだ。どう恐ろしいのか「まだ分からない」のである。
鳥山明の漫画『DRAGON BALL』なら「スカウター」の数字で強さを表示するところ、活字では手段が限られる。そこで著者は一計を案じた。対戦相手と一緒にビデオを見、井上像を言葉にしてもらおうというのだ。
インタビューしたのは敗れた選手、踏み込んではいけない領域がある。著者の細やかな気配りで、10人からヒリヒリする対応と言葉を引き出した。佐野友樹は「みんな、闘うなら今しかない。来年、再来年はもっと化け物になる」と口走り、田口良一には「『井上戦でダウンしていない男』はいい称号だな」と述懐させた。ドネアはまだ井上戦を語りたくないと口をつぐみ、同じくレジェンドのナルバエスは饒舌だ。
戦略が光る傑作である。
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