書評
『38人の沈黙する目撃者 キティ・ジェノヴィーズ事件の真相』(青土社)
無関心の是非を問いかけ
夜中に、近所で悲鳴が聞こえたら、あなたはどうするだろうか。すぐに警察に通報するか、それともふとんをかぶって、知らぬふりをするか。1964年3月13日の未明、キティ・ジェノヴィーズという娘が、ニューヨークの自宅アパートの近くで、30分にわたって襲われ続け、殺害された。その間、近隣の住人はキティの悲鳴を聞いたはずだが、だれも助けに出る
どころか、警察に通報さえしなかった。沈黙した目撃者の数は38人にものぼった。
この事件は、自分に関係のないことには関わらない、いわゆるアパシー(無関心)の問題について、多くの論議を呼び起こした。著者は、沈黙した目撃者の数が少なければ許されるのか、あるいは遠くで起こった事件なら、無関心でもいいのかなどと、鋭い問いかけをする。しかし、明確な答えは出てこない。
小著ながら、東日本大震災に対する国内外の反応が、なんの脈絡もなく思い浮かんできて、惻々(そくそく)とさせられた。
朝日新聞 2011年7月3日
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