人間は生きものという基本から出発すると、なぜこのような考え方が生まれるのかが理解できない思想に出会うことがある。その最たるものが優生思想だ。本書は、綿密な取材から日本は優生社会化しているように見えると指摘する。具体例としてまずあげられるのが妊婦の血液を用いる新型出生前診断だ。
無認定の診療施設や民間企業が、妊婦の不安を利用して事業拡大するのを見て、当初は慎重だった日本産科婦人科学会が認可の方向に動き始めてもいる。収入への期待からと思える動きだ。これには遺伝カウンセリングの問題も絡み複雑である。著者らはこれを「不安ビジネス」と呼ぶ。最近はゲノム編集など次世代の遺伝子改変も可能になっており、ビジネスは拡大しそうだ。
一方、社会は、地域住民が障害者施設の建設反対を叫び、施設で入所者殺害事件が起きるなど、障害者をその一員として受け入れる構造を作り出せていない。このような社会の先には、誰もが排除され、差別される社会が待っているという指摘は現実味があり恐ろしい。命を大切にという言葉の具体化を考える素材を本書に見つけ、考えよう。