≪一見妥当に思える推論≫で≪驚くべき結論を導く≫パラドクス。ギリシャの昔から哲学の常道だ。
運動は可能なのか?/時間は流れているのか?/運命は決まっているのか?/死は悪いことか?/私たちは自由なのか?/人生に意味はあるのか? 目次の並びを見るだけでも頭がくらくらする。≪読者の「世界・人生のみかた」に変革を与えること≫が本書の目標なのだという。
著者の森田邦久氏は科学哲学と分析哲学が専門。世界中の論文を読みまくってふんだんに引用、奇抜な議論が山盛りだ。最近の哲学はこんなふうなのかと概観できてよい。
こんな印象ももつ。二○世紀後半から分析哲学が全盛で、哲学が受験数学みたいになった。かつてプラグマティズムは宗教の争いを止め、人びとに幸福をもたらした。分析哲学は科学に寄りすぎで、人びとは置いてきぼり。その反動で宗教に救いを求め、福音派が出てきたのでは。
分析哲学でなければ、ポストモダン。やはりお高くとまっている。
その現状を打ち破るべく、著者は大学の哲学の講義に工夫をこらしている。その成果をふんだんに盛り込んだ本書は、かなりお勧めだ。