毎年の七月最終土曜日の英アスコット競馬場、ジョージ六世とエリザベス王妃を記念する大レースがある。二人は現エリザベス女王の両親であるが、この日、女王様はパドックにお出ましになる。身近に気楽な姿を見る絶好の機会であるのだ。
一九五二年に二十五歳でイギリス王位についたエリザベス女王。かのW・チャーチルら十数人の首相が仕えたのだから、「史上最長・最強のイギリス君主」なる副題もお飾りではない。女王の御代にイギリスが栄えるというジンクスがあったから、戴冠式を控えたチャーチル老首相も「ヴィクトリア時代に青年期を過ごした私としては……正直わくわくしているのだ」ともらしている。
女王にとっては、かつての大英帝国の面影を残すコモンウェルス(英連邦)という類い稀なる共同体は人生そのものだったという。だが、低迷するイギリス経済を再生させようとするサッチャー首相はコモンウェルスを露骨に嫌っていたらしい。二人の間には確執がひそんでいたが、表立ってはおだやかだった。
七十年近い在位で幾多の試練を乗り越えた女王の人生には、まさしく現代史が反映されている。