ヨーロッパ中世史は日本人には分かりづらい。背景には、王侯貴族が乱立し、さまざまな姻戚関係を結び、複雑にからむ王位継承問題がある。百年戦争は、一三三七年のフランス王位と領土をめぐる係争に端を発し、一四五三年にボルドー陥落によるイギリス勢力撤退で幕を閉じる。
戦争勃発時イングランド王国は一三万平方キロの国土に五〇〇万人弱が住み、フランス王国は四二万平方キロの国土に一七〇〇万人がいた。国土も人口も三倍以上の差があった。英王家と仏王家はもともとフランス北西部の同じ母胎に発祥し、そこに拠点があった。やがてドーヴァー海峡をはさんで別の国家に成長していく。兄弟姉妹が喧嘩と仲直りをくりかえす、ありふれた戦争だった。
そもそもイギリス人とフランス人が対峙する戦争でもなかったのに、いつの間にか、二つの王国の戦争になっていく。途中、黒死病(ペスト)の蔓延もあり、一筋縄ではいかなかった。本書は誰が百年を戦ったのかという戦争の当事者に焦点をあてている。それによって、ヨーロッパ中世が断ち切られ、近代に連なる国家が形成されたことを鮮明に浮きぼりにする。