書評
『警備員日記』(太田出版)
観察して鮮やかに描いた人物像
著者はもともと、映像畑の人である。1992年には、日本海軍最後の戦艦〈武蔵〉の記録映画「軍艦武蔵」を制作、監督している。同題の活字本も出したが、思ったほど売れないため、次の作品を仕上げるまでの間、警備員のパートを始める。本書は、その苦労話をまとめたもので、小説とも手記ともつかぬ、微妙な色合いを持つ。
工事現場などで、人や車の誘導をする警備員を、よく目にする。とかく見過ごしがちだが、本書を読むとその苦労がよく分かり、「ごくろうさん」と一声かけたくなる。
映像の世界で、それなりの業績を残した著者だが、虚心坦懐(きょしんたんかい)にこの仕事と取り組む姿は、いっそすがすがしいものがある。上司や同僚、後輩の人となりをよく観察し、その人物像を鮮やかに描き出す筆力は、凡手の技ではない。ことに、〈師匠〉と呼ばれる先輩の描写に、精彩がある。
著者には、映像の仕事と併せて著作の方面にも、視野を広げてもらいたい。
朝日新聞 2012年2月5日
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