書評

『俳句という遊び―句会の空間』(岩波書店)

  • 2017/08/19
俳句という遊び―句会の空間 / 小林 恭二
俳句という遊び―句会の空間
  • 著者:小林 恭二
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:新書(260ページ)
  • 発売日:1991-04-19
  • ISBN-10:4004301696
  • ISBN-13:978-4004301691
内容紹介:
春爛漫の甲州に八人の俳人が会した。飯田龍太、三橋敏雄、安井浩司、高橋睦郎、坪内稔典、小沢実、田中裕明、岸本尚毅―。当代一流の技量を有する俳人たちが、流派の別を超えて句会を開いた。これはその句会録である。うちとけた中にある厳しい雰囲気、俳句を媒介にした上質なコミュニケーション、この「遊び」こそ俳句の醍醐味なのである。
時は春。所は山梨県境川村。桃と杏と桜の花がいっぺんに咲いている。この雅びな舞台に登場する八人のサムライたち。

飯田龍太、三橋敏雄、安井浩司、高橋睦郎、坪内稔典、小澤實、田中裕明、岸本尚毅――流派の枠を越えて集まった俳人は、いずれも当代一流といわれる実力者ぞろい。

俳句を作っている友人に、右のキャスティングを見せたら「すっごい豪華メンバー、すっごい、すっごい」とすっごいを連発していた。この八人で句会が催されたということ自体が、一つの事件なのかもしれない。

本書の柱は、二日間にわたる句会の記録である。「記録」といってしまうと、なんだか会議の議事録みたいだが、そういう味気ないものではない。「実況中継」という語が、一番ぴったりのようだ。

句会をプロデュースした著者は、まことに巧みに、このオールスター戦を実況する。臨場感があって、読んでいてつい興奮してしまった。また、試合の展開だけでなく、緊張高まる場面の雰囲気、句作する俳人のプロフィール、さらにはコマーシャルタイムのように「戦後俳句史」や「題詠とは何か」という項目がふっと出てきて、知らぬまに勉強ができてしまったりもする。なかなかお得な本だ。

句会では、その場で作った互いの作品(作者名は伏せてある)に点を入れ合う。読みながら私も、好きな句に点を入れていった。自分の贔屓の句が高得点をとればニンマリ、全然ダメだったりするとガッカリ。こうすると一句一句の鑑賞や、俳人たちの発言が、さらにおもしろく身を入れて読める。ちょっぴり自分も参加しているような気分になれるのだ。

著者は「御用とお急ぎでない方は是非、目を通して選句を」と言っているが、御用があっても急いでいても、これはオススメする。

表現を通して散らされる火花、とことん言葉と自分を見つめる時間、緊張と信頼に支えられたコミュニケーション――句会とは、まさに「大人の遊び」だ。しかも、とびきり粋な遊び。

お手軽な遊びからは、お手軽な楽しさしか得られない。真剣に遊んでこそ得られる醍醐味というものを、この本は見せてくれる。

そういう意味では、「俳句を通しての遊び論」と読むこともできるのではないかと思った。

【この書評が収録されている書籍】
本をよむ日曜日 / 俵 万智
本をよむ日曜日
  • 著者:俵 万智
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(205ページ)
  • 発売日:1995-03-01
  • ISBN-10:4309009719
  • ISBN-13:978-4309009711
内容紹介:
大好きな本だけを選んで、読んだ人が本屋さんへ行きたくなるような書評を書きたい-朝日新聞日曜日の書評欄のほか、古典文学からとっておきのお気に入り本まで、バラエティ豊かに紹介する、俵万智版・読書のススメ。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

俳句という遊び―句会の空間 / 小林 恭二
俳句という遊び―句会の空間
  • 著者:小林 恭二
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:新書(260ページ)
  • 発売日:1991-04-19
  • ISBN-10:4004301696
  • ISBN-13:978-4004301691
内容紹介:
春爛漫の甲州に八人の俳人が会した。飯田龍太、三橋敏雄、安井浩司、高橋睦郎、坪内稔典、小沢実、田中裕明、岸本尚毅―。当代一流の技量を有する俳人たちが、流派の別を超えて句会を開いた。これはその句会録である。うちとけた中にある厳しい雰囲気、俳句を媒介にした上質なコミュニケーション、この「遊び」こそ俳句の醍醐味なのである。

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朝日新聞

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