書評
『俳句という遊び―句会の空間』(岩波書店)
時は春。所は山梨県境川村。桃と杏と桜の花がいっぺんに咲いている。この雅びな舞台に登場する八人のサムライたち。
飯田龍太、三橋敏雄、安井浩司、高橋睦郎、坪内稔典、小澤實、田中裕明、岸本尚毅――流派の枠を越えて集まった俳人は、いずれも当代一流といわれる実力者ぞろい。
俳句を作っている友人に、右のキャスティングを見せたら「すっごい豪華メンバー、すっごい、すっごい」とすっごいを連発していた。この八人で句会が催されたということ自体が、一つの事件なのかもしれない。
本書の柱は、二日間にわたる句会の記録である。「記録」といってしまうと、なんだか会議の議事録みたいだが、そういう味気ないものではない。「実況中継」という語が、一番ぴったりのようだ。
句会をプロデュースした著者は、まことに巧みに、このオールスター戦を実況する。臨場感があって、読んでいてつい興奮してしまった。また、試合の展開だけでなく、緊張高まる場面の雰囲気、句作する俳人のプロフィール、さらにはコマーシャルタイムのように「戦後俳句史」や「題詠とは何か」という項目がふっと出てきて、知らぬまに勉強ができてしまったりもする。なかなかお得な本だ。
句会では、その場で作った互いの作品(作者名は伏せてある)に点を入れ合う。読みながら私も、好きな句に点を入れていった。自分の贔屓の句が高得点をとればニンマリ、全然ダメだったりするとガッカリ。こうすると一句一句の鑑賞や、俳人たちの発言が、さらにおもしろく身を入れて読める。ちょっぴり自分も参加しているような気分になれるのだ。
著者は「御用とお急ぎでない方は是非、目を通して選句を」と言っているが、御用があっても急いでいても、これはオススメする。
表現を通して散らされる火花、とことん言葉と自分を見つめる時間、緊張と信頼に支えられたコミュニケーション――句会とは、まさに「大人の遊び」だ。しかも、とびきり粋な遊び。
お手軽な遊びからは、お手軽な楽しさしか得られない。真剣に遊んでこそ得られる醍醐味というものを、この本は見せてくれる。
そういう意味では、「俳句を通しての遊び論」と読むこともできるのではないかと思った。
【この書評が収録されている書籍】
飯田龍太、三橋敏雄、安井浩司、高橋睦郎、坪内稔典、小澤實、田中裕明、岸本尚毅――流派の枠を越えて集まった俳人は、いずれも当代一流といわれる実力者ぞろい。
俳句を作っている友人に、右のキャスティングを見せたら「すっごい豪華メンバー、すっごい、すっごい」とすっごいを連発していた。この八人で句会が催されたということ自体が、一つの事件なのかもしれない。
本書の柱は、二日間にわたる句会の記録である。「記録」といってしまうと、なんだか会議の議事録みたいだが、そういう味気ないものではない。「実況中継」という語が、一番ぴったりのようだ。
句会をプロデュースした著者は、まことに巧みに、このオールスター戦を実況する。臨場感があって、読んでいてつい興奮してしまった。また、試合の展開だけでなく、緊張高まる場面の雰囲気、句作する俳人のプロフィール、さらにはコマーシャルタイムのように「戦後俳句史」や「題詠とは何か」という項目がふっと出てきて、知らぬまに勉強ができてしまったりもする。なかなかお得な本だ。
句会では、その場で作った互いの作品(作者名は伏せてある)に点を入れ合う。読みながら私も、好きな句に点を入れていった。自分の贔屓の句が高得点をとればニンマリ、全然ダメだったりするとガッカリ。こうすると一句一句の鑑賞や、俳人たちの発言が、さらにおもしろく身を入れて読める。ちょっぴり自分も参加しているような気分になれるのだ。
著者は「御用とお急ぎでない方は是非、目を通して選句を」と言っているが、御用があっても急いでいても、これはオススメする。
表現を通して散らされる火花、とことん言葉と自分を見つめる時間、緊張と信頼に支えられたコミュニケーション――句会とは、まさに「大人の遊び」だ。しかも、とびきり粋な遊び。
お手軽な遊びからは、お手軽な楽しさしか得られない。真剣に遊んでこそ得られる醍醐味というものを、この本は見せてくれる。
そういう意味では、「俳句を通しての遊び論」と読むこともできるのではないかと思った。
【この書評が収録されている書籍】
朝日新聞
朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。
ALL REVIEWSをフォローする







































