書評

『ロング・リリイフ』(航思社)

  • 2025/02/22
ロング・リリイフ / 松本 圭二
ロング・リリイフ
  • 著者:松本 圭二
  • 出版社:航思社
  • 装丁:単行本(107ページ)
  • 発売日:2017-09-01
  • ISBN-10:4906738257
  • ISBN-13:978-4906738250
内容紹介:
朔太郎賞詩人の幻の第1詩集そうして僕らは 鮮やかなアクリル質の皮膜のなかで 日々の没落を暖めていたその腐敗物は恋人の夢の彼方で匂っている熟れ落ちた柘榴なのだろう僕はシオカラトン… もっと読む
朔太郎賞詩人の幻の第1詩集

そうして僕らは 鮮やかなアクリル質の皮膜のなかで 日々の没落を暖めていた
その腐敗物は
恋人の夢の彼方で匂っている
熟れ落ちた柘榴なのだろう
僕はシオカラトンボの飛行に誘われるまま ぬるい湿林に嵌まってしまう
切り取られた空のゆるまりのなかで なおもゆるまってゆく
柘榴
親密な体臭に絆された溺愛の白雲がひかれてゆく ぬるく ほとばしる

絨毯爆撃がしたい

【著者より】
ここに収めた各詩篇の原形となるテクストを書いたのは、
1982年から87年にかけてのおよそ5年間であり、
年齢で言えば17歳から22歳、
たぶん、私がもっとも詩人らしくあった頃である。
それらのテクストを、私は自室でこっそりと書き、長い間隠し持っていた。
『ロング・リリイフ』のような詩集を私は二度と作ることはできないし、
ここに収めたような詩を書くこともできない。
多くの処女詩集がそうであるように、これは一回きりの跳躍である。
ただし私は、これまでの詩集でも一回きりの跳躍を試みたつもりである。
叶うことならば処女詩集だけを作り続けたい。私は詩人の成熟など全く信じていない。

【目次】
夏至
ロング・リリイフ
エレクトリック・フルーツ
ユリス
ナゼル
ヒバリ
ランタン
草卵
どこに配達されるの?
ブギウギしちゃうな
ヒナタに来てよかったね
メガヘルツ
空母
鯊とコチ
ソフト・カートリッジ
クリア

そぎ落とされた詩の言葉

松本圭二のセレクションが刊行中だ。松本は詩人であり、小説を書き、映画についての犀利(さいり)な論考を発表してきた。

セレクションは全部で9巻に及ぶが、第1詩集『ロング・リリイフ』、自伝的な要素をちりばめた小説『さらばボヘミヤン』、そして圧倒的な存在感を示した『詩篇アマータイム』が3冊同時発売された。

やはり『ロング・リリイフ』が忘れがたい。極端にそぎ落とされた詩の言葉はしかし、読者を少しも拒むことなく、その固有の世界を作っていた。

松本は書いている。その詩集は「一回きりの跳躍」だった、と。長く入手困難だった、老成や成熟と無縁な詩人の仕事が、また読めることが何より嬉しい。
ロング・リリイフ / 松本 圭二
ロング・リリイフ
  • 著者:松本 圭二
  • 出版社:航思社
  • 装丁:単行本(107ページ)
  • 発売日:2017-09-01
  • ISBN-10:4906738257
  • ISBN-13:978-4906738250
内容紹介:
朔太郎賞詩人の幻の第1詩集そうして僕らは 鮮やかなアクリル質の皮膜のなかで 日々の没落を暖めていたその腐敗物は恋人の夢の彼方で匂っている熟れ落ちた柘榴なのだろう僕はシオカラトン… もっと読む
朔太郎賞詩人の幻の第1詩集

そうして僕らは 鮮やかなアクリル質の皮膜のなかで 日々の没落を暖めていた
その腐敗物は
恋人の夢の彼方で匂っている
熟れ落ちた柘榴なのだろう
僕はシオカラトンボの飛行に誘われるまま ぬるい湿林に嵌まってしまう
切り取られた空のゆるまりのなかで なおもゆるまってゆく
柘榴
親密な体臭に絆された溺愛の白雲がひかれてゆく ぬるく ほとばしる

絨毯爆撃がしたい

【著者より】
ここに収めた各詩篇の原形となるテクストを書いたのは、
1982年から87年にかけてのおよそ5年間であり、
年齢で言えば17歳から22歳、
たぶん、私がもっとも詩人らしくあった頃である。
それらのテクストを、私は自室でこっそりと書き、長い間隠し持っていた。
『ロング・リリイフ』のような詩集を私は二度と作ることはできないし、
ここに収めたような詩を書くこともできない。
多くの処女詩集がそうであるように、これは一回きりの跳躍である。
ただし私は、これまでの詩集でも一回きりの跳躍を試みたつもりである。
叶うことならば処女詩集だけを作り続けたい。私は詩人の成熟など全く信じていない。

【目次】
夏至
ロング・リリイフ
エレクトリック・フルーツ
ユリス
ナゼル
ヒバリ
ランタン
草卵
どこに配達されるの?
ブギウギしちゃうな
ヒナタに来てよかったね
メガヘルツ
空母
鯊とコチ
ソフト・カートリッジ
クリア

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初出メディア

日本経済新聞

日本経済新聞 2017年9月21日

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